アルテア王国物語 第一部

□第六話 エリーとエミリア
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雨が降ってきた。

思わずロイドは天を見上げた。

慣れない黒のスーツを直しながら、もと来た道を戻っていく。

「ああ、そろそろ見つかってほしいですねぇ」

一緒に行動しているシンは言った。

もちろんシンも黒のスーツ。

いつもの軽甲冑では目立つということでこんな格好をしているのだが。

「この格好もたいがい目立ちますよね?」

「まあ、この格好で俺たちを王都警護役だとわかる奴も、なかなかいないんじゃないかな?」

ロイドは言った。

ふと見れば、黒いスーツを来た奴らがたくさんいる。

この表通り、通行人が多いとはいえ、スーツを着た人間の数も負けてはいない。

「なんでこんなにウヨウヨいるんだよ?」

「さあ、探すところもだんだん限られてきてるんでしょうねえ」

さすがに王都警護役が総動員されりゃ、このくらいになるんだろうなとロイドは思った。

「最後に見つかったのが王立公園の中だったな。

もう一人、一緒に歩いていたという女はだれだったんだ?」

「さあ、見つけた奴がすぐ見失ったもんだから、詳細分からずって感じらしいっすよ」

「そうか」

と、その二人に近寄ってくる男が一人。

「どうだ、何か手がかりはつかめたか?」

身長が高く、髪を短く刈り上げた男は言った。

「サッパリですな。どこへ行かれたんでしょうね?」

ロイドは言った。

「実はもう戻られたのではないでしょうか?」

とシンは冗談っぽくしゃべる。

「そんなわけないだろう。ま、そろそろ今日のところは切り上げるつもりだが‥‥‥。

とりあえず捜索を続けてくれ。頼んだぞ」

と、男はロイド達のそばを離れた。

彼の名はケイオス•アーノルド。

王都警護役の司令官であり、最高責任者に当たる。

「隊長、俺、早く帰りたいんですけど〜?」

「なんかあったのか?」

「それがね、久々に女が家に来てて、ご飯作って待ってくれてるんですけど〜」

「そうか」

なんか聞いて損したような。

しかし、朝からずっと働き詰めだから、疲れが出てきて。

アーノルド司令の言うとおりそろそろ切り上げた方がよさそうだ。

そこへ、今度は若い男が声をかけてきた。

「あ、ロイドさん」

格好から見て一般人なんだが、名前が出てこない。

何処かで見たことがあるんだが‥‥‥。

「‥‥‥僕、〈とんちき亭〉のフォルテですけど?」

「おー、思い出した」

「‥‥‥忘れないでください」

「どうかしたか?」

「僕はもう、仕事終わったんですけど、なんかロイドさんに会いたがってる女の人が来てましたよ」

「俺に会いたい女?」

「はい」

「ほーう、隊長も隅に置けませんねぇ」

シンはニヤニヤしながら言った。

「今は勤務中だ。また今度にしてくれ」

「え、でも‥‥‥。エリーって人がかなり会いたがってたんだけどなぁ」

「そんな女、知らん‥‥‥って、いや、知ってるな」

ロイドは少し考え込む。

「エリーさんって言うんですか、その人。なかなかいい名前じゃないですか」

シンはにやけまくっている。

「シン、〈とんちき亭〉に行くぞ」

「今は勤務中ですよ、って僕も行くんですか?」

「そうだ、フォルテ、サンキュ、伝えてくれて。気をつけて帰れよ」

「どうも。ロイドさんも気をつけて」

ロイドはシンと一緒に、人混みの中に消えた。
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