アルテア王国物語 第一部
□第六話 エリーとエミリア
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エリーはふらつく足で、エミリアに近付き、手を取る。
「エミリア、今日はありがとう。じゃあね」
「あなたって何者なの?」
「それはヒミツかな」
エリーはクスッと笑って見せる。
「行きますよ」
ロイドは言った。
「はい」
エリーは答える。
ロイドは〈とんちき亭〉の扉を開け、二人は外に出た。
「これはこれは、やっと大人しくして頂けるのですね、エレオノール姫」
と、外で待ち構えていたのはケイオス•アーノルド司令と王都警護役三百名。
ロイドはシンの姿を捜していると、しれっとその中に混ざっているのがチラリと見えた。
「ご迷惑をおかけして申し訳ありません、アーノルド卿。でもたまにはいいでしょう、こういう鬼ごっこも」
エリー、いや、エレオノールは言った。
「こちらとしては胃が痛くなるばかりですな。
城で大人しくして頂いた方が、何事もなく平和に過ごせるというものです」
アーノルドは言った。
もちろん、王都警護役は他国で言う親衛隊。
王族、王城を護ることを任せられている部隊である。
王族の一人であるエレノオールにもし万が一のことが起きたら、アーノルドは責任を追及され、降格は免れない。
除隊されることさえあり得る。
気まぐれで城を抜け出し街中を不用心に歩き回るなど、アーノルドからすれば、あり得ない行為だった。
「ロイド、今回もお前の仕業か」
アーノルドはロイドに言った。
「ジルベルト殿は関係ありません」
「信じられませんな」
前回、と言っても十年も前の話だが、姫が王城を抜け出した時、ロイドが手引きしたということになっている。
「もし、ジルベルト殿の罪とするなら、私は王族の権限を持ってあなたに罰を与えます。よろしいですか」
「‥‥‥分かりました」
アーノルドは頭を下げた。
「それと‥‥‥」
エレオノールは三百名の黒服達を見回し、
「誰か私の手を引いてくれないかしら?少し酔っ払ってしまって‥‥‥」
と言った。
アーノルドはルシネを呼び、その役を与えた。
「姫様、こちらへ」
エレオノールはルシネの、差し出した手を取った。
「それでは帰りましょうか」
アーノルドは言った。
「はい」
エレオノールは答える。
黒いスーツを着た者たちは、姫を守るように取り巻きながら、王城へ向かって行った。
「エリーってお姫様だったんだね」
数日後、〈とんちき亭〉に来たロイドに、エミリアは話かけた。
「ああ、そうだ。第三王女、第七子。兄弟姉妹の中では一番下だな」
ロイドは麦酒を飲みながら言った。
「エリーって綺麗よね」
「‥‥‥ああ、そうだな」
エミリアはカチャカチャと音を立てて皿を洗っている。
「最近、忙しいか?」
「忙しいかも。どうしてよ?」
「ヴィレがなんかよく動いてるなぁとか思ってさ」