アルテア王国物語 第一部

□第三話 復讐の花嫁
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「私、これからどうすればいいの?」

肩まで伸ばし髪をかきあげながらマリは言った。

胸元のはだけた上着にタイトなスカートをはき、黒のストッキング。

細い体つきがいっそう細く見える。

「男運悪いね」

ヴィレはカクテルを飲みながら泣いているマリを励ますように言った。

「まさかあの人があんな消えかたするなんて」

泣きながら、一段大きな声で言った。

「あんな大金を貸すからよ。そんな大金、返せるあてがあったの?その人」

「そんなこと関係ないじゃない、これから一緒に暮らそうと言ってくれた人に」

マリの言葉にヴィレはため息をついた。

マリはウェイターが持ってきてくれた赤ワインを一気に飲み干す。

そしてまた、同じものを持ってくるようウェイターに言った。

「気の毒としか言いようがないけど。飲み過ぎはやめておいたほうがいいよ」

飲んで泣いて、泣いて飲んで。

止めさせたいけど気持ちは痛いほどよくわかる。

私も、男運がいいわけじゃないし。

そんな自分にもため息が出る。

「もう諦めなよ、何もかも。彼がどこにいるか、知らないんでしょ?」

「知らない。知らないけど。絶対見つけ出して殺してやるんだから」




次の日。

ロイドはいつものように〈とんちき亭〉でカウンターに座ると、冷たい麦酒を頼んだ。

「それにしても毎日よく飲むわね」

エミリアはそう言いながらジョッキに麦酒を注いで差し出した。

「この一杯のために生きてるようなもんだからな」

とイッキ飲み。

「お代わり」

と空のジョッキをエミリアにさしだした。

「早いわね。他の客に麦酒を持っていけないじゃない」

別の客のために用意してた麦酒を仕方なくロイドの前に置いた。

「お前こそ早いな。さては俺が二杯目を頼むのを予想してやがったな」

「だから他の客に持っていくやつよ。あんたが何杯も飲むのは毎日のことじゃない」

と、エミリアは右手にジョッキを3つ、左手に3つ持って奥のテーブルに向かって行った。

「最近よく来るね、ロイドさん」

と近寄って来たのはヴィレ。

トレイに空になった器を重ねて流しのところに持ってきて、それを洗い出した。

「よう。忙しいみたいだな」

「うん。団体さんが来て、みんな大わらわだよ。フォルテもなんかマスターに怒鳴られてたみたいだし」

フォルテはキッチンの奥の方で料理を作ってるようだ。

ラジが一生懸命何かを教えてるみたいだが。

「俺としゃべってたら怒鳴られるんじゃないか、お前も」

「ちょっとくらい大丈夫よ。それにもう一段落ついてるから」

「そうか、それならいいんだが」

ロイドは言った。

「……あのさ、ロイドさんに聞きたいんだけど」

「ん、なんだ」

「好きな女の人とかいる?」

ヴィレの質問にロイドは食べようとしていた唐揚げを落としそうになった。

「好きな女の人か。好きな女の人、なあ」

ロイドは自分の周りにいる女性を思い出してみる。

まず〈とんちき亭〉のエミリアとヴィレ。

それと部下に一人。

諜報部にもいたな。

それと……。

「私の友達がね、女の子なんだけど、好きな人に逃げられたんだって」

「そうか」

自分の恋話を話さなきゃならんのか、と思っていたが、そうではないらしい。

「結婚式の当日に姿を消したらしいわ」

「ほう」

「しかも、大金を貸したまま行方不明らしいわ」

「どのくらい貸してたんだ?」

「はっきりした金額は知らないけど、一年は暮らせるって言ってた」

「よくそんな金を持っていたな」

「ちょっとした店のNo.1ホステスだからね、十年暮らせるお金くらい持ってるんじゃない?」

「マジか!?」

そんな金持ってたら、警護役の仕事、やめるかも……いや、それはないか。

「……それで、その子は泣き寝入りか」

「それがね……」

ヴィレはため息をついた。

「その男を見つけ出してたたき斬るって」

「たたき斬る?」

「そう。その子の父親が剣術の師範らしくって、竹刀持たせたらやたら強いのよ」

「ホステスやってる剣士か、一度手合わせ願いたいな」
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