アルテア王国物語 第一部

□第六話 エリーとエミリア
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「はぁ〜あ」

エミリアは大きなあくびを噛み締めながら、公園の時計を見る。

午後三時。

涼しくなってきたとはいえ、この時間はまだ暑い。

朝晩が肌寒いので長袖を着てたりするのだが、エミリアはその袖をまくっている。

王城がある通りより少し南に下ったところにばかに広い公園があった。

王立公園で、池というか湖というか、それが中央にあって。

それを柵で囲って木々を植えて。

と、ぼんやりと散歩するには格好の場所があった。

ジョギングする人もいればカップルでイチャイチャしてる人もいる。

もちろん、エミリアは一人。

せっかくの休みをこの広い公園で散歩をしていた。

毎日出勤しても疲れるだけだけど、休みの日は時間を持て余して仕方がない。

あーあ、一緒にいてくれる人はいないかなぁ、とか思ったり。

ヴィレもフォルテも出勤だからね。

もちろんラジも。

ロイドはどうせ〈とんちき亭〉に行くんだろうなぁ。

今はまだ仕事中かもしれないけど。

「ふぁ〜あ」

エミリアの口から一段と大きなあくびが出る。

眠い。

家に帰ってもう一眠りしようかしら?

と、その時、トンとエミリアの背中に人がぶつかった。

誰よ、もう、と心の中で悪態をつきながら振り返る。

「ごめんなさい」

と言ったのは女性。

サングラスをかけ、ツバの広い丸い帽子をかぶっていた。

その女性がエミリアに当たった反動でバランスを崩した。

「きゃっ」

エミリアはとっさに手を伸ばしたが
、彼女の腕をつかむことはできなかった。

芝の上に彼女は倒れこんだ。

「大丈夫ですか?」

エミリアは言った。

「うん、なんとかね。ごめなさいね、当たって」

と女性は笑顔で言った。

帽子から流れ出る髪は波打っていて、綺麗だった。

「あのさ、迷惑ついでに頼まれて欲しいんだけど?」

「‥‥‥なんですか?」

なんか嫌な予感がするのだが‥‥‥。

「あの人たちから逃げたいの。協力して欲しいんだけど」

その女性が指差す方向に黒い服を着た男が三人、連れ立って歩いていた。

黒服の男たちはこっちが気付くと、あからさまに視線を外してごまかそうとする。

「‥‥‥あなた何者?」

「何者でもないわよ。善良な小市民。あなたと一緒。‥‥‥もしかしてあなた、貴族?」

「違うわよ。私も善良な小市民の一員なの」

「そうなんだ、私はエリー、よろしくね」

「‥‥‥は?」

「だから、逃げるの、手伝ってくれるんでしょ?」

「そんなことは誰も言って‥‥‥」

とエミリアがいい終わる前に、

「やばい、あの人たちが走ってきたわ」

とエミリアの腕をつかむ。

振り返ると、黒服の男たちが猛然と走ってきてるではないか。

「さあ、走って。逃げるわよ」

エリーはそう言って、エミリアの腕をつかんだまま走り出した。
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