アルテア王国物語 第一部

□第七話 憂鬱な夜
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「しばらく見ない間に元気になったね、マリ」

ヴィレはカクテルを飲みながら言った。

「そうかな」

入院中、誰とも会いたくなかったので、ヴィレがあの日帰ってから、面会謝絶にしてもらった。

ルーカスには逃げられるし、逮捕されるし。

別に女つくってたみたいだし。

お金とられるし。

‥‥‥でも、好きだったのに。

なんであんな男を好きになったんだろ?

甘い言葉ばかりで、実がないというか。

実があっても、甘い言葉の言えない男はいらないけど。

そんな自分の気持ちをぐちゃぐちゃにされて、あの女に負かされて。

正直、もう死にたいと思った。

一人になりたかった。

誰とも会いたくなかった。

友人や知人が駆けつけてくれてたみたいだけど。

胸の奥深くからこんこんと湧き出でてくるこの悲しみ。

何度も何度も、とめどなく流れるこの涙。

何もかもがどうでもよかった。

でも、時が経てば月は登るし日は沈む。

眠くなるし、お腹は減るし。

お金も心細くなるし、体重増えそうだし太りそうだし。

体は治ってくるし、そしたら外に出たくなるし。

涼しくなった頃合いを見計らって退院。

今から思えばなんて現金な‥‥‥。

鏡に映った自分の顔、かなりヤバい。

魚の死んだような目をしてる。

どれだけ化粧をしても、口紅をしても、髪をビシッと整えても、隠せないものがあって。

なんか面倒くさそうな顔してる。

全てのことに対して。

店に戻っても、今一つ波に乗れない自分がいたりして。

前のようにガツガツといけない。

ガツガツといっても、虚しいというか悲しいというか。

かっこいい客も、言葉上手な客も、金持ちの客も、なんかウザい。

っていうか商売柄そうなるのかもしれないけど、そう思っちゃいけないんだろうけど、

男という生き物がウザい。

‥‥‥どうでもいいか、こんなこと。

仕事が終わり、夜が明けようとする頃、いつもまだやってる知り合いのバーにふらっと行ったら、

ヴィレが一人で飲んでいたんだけど‥‥‥。
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