アルテア王国物語 第一部
□第八話 長い一日
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「いらっしゃい、ロイド」
お馴染み〈とんちき亭〉。
ロイドが扉を開けると、エミリアがカウンターで料理を作っている。
ロイドはいつものようにカウンターに腰をかけて麦酒をたのんだ。
「久しぶりね、ロイド」
「ああ、久しぶりだな」
「なんかあったの?」
「ああ。ちょっと面倒くさいことになった」
「どういうこと」
「先日、商業区で爆破事件があってな。そいつらが警邏隊だけではどうも荷が重い‥‥‥ってわけで警護役から人数が出ることになったんだが」
「その中にロイドが含まれていた、と?」
「まあ、そういうことだな。二十人ほど出る特別隊を俺が指揮しなきゃならないことになった」
「ふーん」
エミリアは相槌を打ちながら、ロイドの頬っぺたをつねってきゅーと引っ張った。
「‥‥‥おい、エミリア」
ロイドは言った。
「それで、何?」
「とりあえず、その手を離してくれないか?」
別に痛いほどつねられているわけではないんだが‥‥‥。
「ヤダ」
「‥‥‥ここには前ほどは来れないかもしれないんだが」
「ダメ」
「仕方ないだろう。この件が片付いたらまたいつも通り来る。全く来ないつもりもないしな」
「ムリ」
「‥‥‥それならどうしたらいいんだ?」
「三回回ってワン、って言いなさい」
「‥‥‥お前は子供か」
「それじゃ、願いを叶える球を七つ集めてきて」
「そんな球、この世界には存在しない」
「忍っていう名前の吸血鬼の女の子を‥‥‥」
「それ以上言わなくていい」
「‥‥‥それじゃ、何してくれるのよ?」
「実現可能な事を言ってくれたらいいんだ」
「あ、ロイドさん、いらっしゃい」
と、客席の方からヴィレが戻って来た。
「仲がいいわね、二人とも」
ロイドの頬っぺたをつねっているエミリアを見て言った。
「俺は一刻も早く手を離してほしいんだけどな」
「ロイドさんも、満更でもないでしょ」
「そんなことねーよ」
「お酒も飲まずにエミリアの相手、ご苦労様です」
「注文してるのに持ってきてくれねぇんだ」
「あっ」
エミリアは今思い出したかのように言った。
「あっ、じゃねえよ」
「仕方ないわね、少しだけ離してあげる」
「またつねるつもりか」
と、エミリアが手を離そうとした時。
「離さなくていいよ、エミリア、私が持ってきてあげるから。ロイドさん、麦酒だよね?」
と、ヴィレが言いながら麦酒を取りに行った。
「おーい、あまりエミリアを甘やかすんじゃない」
ロイドはヴィレに言った。