おはなし。
□A pink hiding place
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玄関を開けると、中は真っ暗だった。
みんなもう寝たのか。
自分がどうやってここに帰ってきたのかもわからない。もしかしたら、また誰かに自分の中の苛立ちを吐き出してきたのかもしれない。
リビングに入ると、ふらふらとソファーに倒れ込む。
部屋に、帰らなきゃ。
こんな弱った姿、誰にも見せたくないのに。
「…っ、」
体に、力が入らない。
なんだよ、動けよ。なにしてんだよ。
このまま、くたばるのか。俺は。
仕事でも、人としても。
また、怖くて怖くてたまらなくなった。あの寒気だ。
急にふわっと甘い香りがした。
自分の体が暖かいもので包まれるのが分かる。
視線をやると、毛布がかけられていた。
「誰、が…」
「しー…?」
掠れる喉から声を絞り出すと、丸い目が俺の顔を心配そうに除き込む。
長い柔らかい髪が頬に触った。
「お、まえ…」
出てけって言っただろう。
邪魔なんだよ。これ以上俺に関わるな、来るな、嫌だ。
こんな俺の無様な姿なんか、見るな。
お前に何が分かる。
髪を引っ付かんで、引き離してやろうと思った。
「…こっこ、ね」
ふわっと甘い香りが俺を包んだ。
温かくて、柔らかい。
そっと抱き締められている。
「…っ」
自分の頬が濡れているのがわかった。
泣いているのか、俺は。
「こっこ、よしよし…」
そっと頭を撫でられる。
「うる、さい…黙れ、」
悔しいのに、こんな奴に同情なんかされてたまるかと思うのに。
優しく触れられると涙が止まらなかった。
「よしよし、ね…?」
痺れる腕でそっと抱きつく。優しく背中をさすられた。
静かな、真っ暗な部屋の中で。
俺は、久しぶりに声を挙げて、泣いた。