おはなし。
□A yellow hiding place
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また、か…
一定の距離を保って近づいてくる黒い車。
パパラッチ、っていうのかな。
「有名税」とはよく聞くけど、最近はちょっと過剰気味な気がする。
仕事の場でいくら追われたところで構いはしないんだけど、俺にだって息抜きしたいときぐらいあるよ。
「…あー、すいません」
振りかえってにこっと微笑むと、車の窓をコンコン叩いた。
「俺これから、男友達に会うだけなんで。付いてきても無駄だと思います。やるなら勘づかれないようにしてくださいね。」
ゆっくり開いた窓からはあ、ばれちゃってました?なんて苦笑気味の二人組。
「結構前から気づいてました。お疲れ様です。」
軽くあしらって足早にカフェへと入る。
「え、もしかしてキスマイの人?」
早速女の子の小声が耳に入る。
ね、名前くらい覚えててよ。
これが有名税なら、そのお陰で何を俺は救われてるんだろう。
…なんて思いながら席についた。
「コーヒー、ブラックで。」
端っこの席で頬杖をついて窓の外を眺めた。さっきの二人組は追ってきてないみたいだ。
こんな風に、頬杖なんかついてたら、プライベートは愛想ないなんて呟かれちゃうのかな。
こっちは呟かれた時点でプライベートなんかじゃなくなるのに。
何年たっても、いくらキャリアをつんでも、未だにこの有名税には慣れない。
おまたせしました、とテーブルに置かれたコーヒー。店員の女の子の声が緊張してるのがわかった。
「ありがと。」
そっと見上げて微笑めば、会釈をして足早にカウンターの中に入っていく。
目、あったなんてきゃあきゃあ中の人と話してるのがわかる。
ね、こうしたら良いこと呟いてくれるのかな?
口に含んだコーヒーは、それほど苦味を感じなかった。