おはなし。
□A pink hiding place
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『あの子、帰る場所がわかるまでとりあえず置いておく事にしたから。』
北山からのメールを読んだ時には、もう深夜1時を過ぎていた。
くたくたになりながらブーツもはいたまま楽屋のソファーに寝転がる。
返す気にもなれずに、携帯を投げると、テーブルの端からガタン、と落ちていった。
珍しくこの時間に撮影が片付いたのに、何もする気が起きない。
家、帰らなきゃ…
「帰る、場所か…」
散々悪態をついて無言でドアを乱暴に閉めて出ていった今朝の事をぼんやり思い出していた。
本当は、あんな事するつもり無かったのにな。
最近は自分が、どんどん嫌な奴になっていくのが分かる。
本心では優しくしようと思っていても、口をついて出るのは相手を傷つける言葉だけ。
今日も、何度も現場でカッとなってスタッフを怒鳴りつけてしまった。
何度も頭を下げるその人に、なんであんなに鋭い言葉を浴びせてしまったんだろう。
ぼんやり、と天井を眺めているとどうしようもなく虚無感が襲ってくる。
不安で、不安で。本当は怖くて。
寒気にも似た感覚が背中に走った。
びくっとして丸くなる。今の自分がどれ程弱くて脆いか、痛いほどわかっている。
コンコン、とドアがノックされる。
藤ヶ谷さん、ロビーにタクシーつきましたよ、と若いスタッフの声がした。
うるさい、うるさい…もう何も聞きたくない。なにもしたくない。
部屋から出るのさえ、今この場で立ち上がるのさえ、怖くて怖くてたまらなかった。