鹿×虎

□眠っている君は………
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年上の自分よりもしっかりしていて、
何かとあれば憎まれ口をたたいて、
自分以外の人には素直なのに、
俺にだけはいつもいつも天邪鬼かって思う程に素直じゃない。

グループのしっかり者のマンネ。
メンバーが口を揃えて言うのは、<昔は天使だった>。
年上の俺達に遅れまいと、常に努力を惜しまず必死についてくる姿は幼く可愛らしかったのに、いつの間にか身長も1番高くなっちまって、同性の俺から見てもかっこよくなっちまったマンネ。

いつもなら、自分の部屋に行くのも億劫でリビングのソファで寝てしまう俺にブツブツ文句を垂れるくせに、今、何だ?自分が寝ちまってんじゃんか。

「チャンミン、起きろって。風邪ひくぞー」

さっきから揺さぶったり頬をペチペチ軽く叩いたり、耳元でこんなにでかい声で呼んでるのに、当のチャンミンはスースーと気持ち良さそうに寝息をたてて一向に起きそうにもない。

……なんだ………
いつも憎たらしいくらいに生意気な顔してるのに。
少し開いた口元とか
バサバサの睫毛とか
ツヤツヤのほっぺとか
何より邪気のないこの寝顔………
反則だろ。

「おーい、チャンミン、起きないとキスしちまうぞー」

思いっきり顔を近付けてまじまじと寝顔を覗き込んだ。

今、目覚めたら「近いっ!」って怒るんだろうなーとか思いながらも、じーっと寝顔を眺める。
いつも少しかさついてる唇にふと目がいった。

………何だよ、ホント………


無意識に伸びた指先が、その乾いた唇をそっとなぞった。

「ん………」
「起きなきゃ本当にキスしちまうぞ?」

少し眉間に皺を寄せたチャンミンの唇から指先を離そうとした途端、その腕をそっと掴まれて心臓が飛び出そうになる。
あげそうになった声を慌てて飲み込んた。

「どうせ、そんな勇気ないでしょ、あんた。」

長い睫毛に縁取られた瞼がゆっくりと開いて、くりくりのバンビアイが姿を現した。
寝てると思ってたのにいきなりで硬直してしまった俺を下から見上げてニヤリと笑うチャンミンは、先程の天使のような可愛らしさなんてどこにもなくて。

「な、なんだよっ!こんなとこで寝てたら風邪ひくと思ってだなっ!わっ!」

掴まれた腕を取り戻そうとしたのに、グイッと引き寄せられてチャンミンの胸に倒れこむかたちになってしまった。

「してくださいよ、ほら、キス!」

んーって唇を突き出してみせるから、余計に視線は唇にいってしまうわけで。

「するかっ!お前が起きねぇから脅しただけだしっ!わわっ!」

両手を突っぱねて逃れようとしたのに、後頭部に回された腕に引き寄せられた瞬間……

チュッと軽い音を立てて奪われた唇。

「ちょっ!」

驚いて固まる俺の後頭部に回された腕に力が入った。

「ちょっ………」

再び重ねられた唇。
声をあげようと開いた口にヌルリと舌が入り込み、口内を我が物顔で侵していく。

「ん………」

逃げようとしていた腕の力が抜け、気付いたらしがみつくようにチャンミンのシャツの胸元を握りしめていた。

こんなはずじゃなかったのに………

「こんなおめざもいいですね」

人の口内をひとしきり侵した後、ニヤッと笑ってやっと解放してくれた。

「ふふっ、ヒョン、顔、真っ赤ですよ?可愛い人。」
「ばっ……!」

馬鹿言うなって言いたいのに言葉にならない俺の頬を手の甲でそっと撫でるときゅっと抱きしめられた。

「退いてくれないんですか?続きしたいとか?」
「なっ………!」

慌てて体を離してチャンミンを睨んだ。

「馬鹿かっ!お前がこんなとこで寝てるから、風邪ひいたら困るしだなっ!」
「はいはい。ありがとーございます」
「何だよっ!ホントだぞ?」
「はいはい。じゃ、何であんなにも顔近付けてたんですか」
「それはっ!………可愛い顔して寝てたから………」

どんどん小さい声になる俺。
フッと笑って起き上がってきたチャンミンについ逃げるように体が退いた。

「可愛いのはあなたです。」
「ひゃっ!」

チュッと頬に口づけられ、思わず肩を竦ませた。

「寝ますね。おやすみなさい」

そう言ってさっさと部屋に言ってしまったチャンミンの背中を見送るとはぁ〜と脱力してしまう。

おかしい。
俺の方が年上なのに。
主導権が取られないのは何でだ?
本気なのかも分からないキスに翻弄されてる俺って何?

チャンミンの気持ちも
自分の気持ちも
掴みかねなくて

でも、男同士なのに嫌悪感もないのってそういうことなのかなって。
ため息一つ吐いた。


気付いちゃいけない

そんな気がするこの気持ち。

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