現世の心
□第五話
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元治元年 五月
昼
『ふぅ……』
肌寒い時期も過ぎ去り、気がつけばもう夏が訪れていた。
肩も完全に完治してるし、ちょうど良い気温もあって、暇を見つけては庭で一人道場で鍛錬を行なっている。(天気の良い日はたまに庭でやっている)
今日も私は、道場で剣術の稽古をしている。(もちろん道着もちゃんと着用してる)
この時代に妖怪がいるとも限らないけど、いざという時に力をつけ直さなくては!
『よし、頑張ろう』
気を引き締めて、何度も素振りをしていた時、道場の扉が開いた。
近藤「鈴風君、こんな所に居たのか」
『あっ…近藤さん。何か御用でしょうか?』
近藤さんはいつもと変わらぬ笑顔で近づき、手に持っていた箱を見せる。
近藤「うむ。以前頼んでいた君の着物が漸く出来上がったのでな!
是非とも着てもらおうと、探していたんだ」
『本当ですか!?』
近藤「ああ。腕の良い大物問屋に仕立てて貰ったからな。きっと似合うぞ!君の要望通り、動きやすい構造にしてもらった」
箱を開けてみると、忍装束を思わせるような黒い服と、赤い羽織が入っていた。
『ありがとうございます。早速着てみます!』
私は道場の着衣室に駆け込み、着物を着てみることにした。
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『わぁ…………』
着替えた私は、姿見に映った自分を覗く。
『これじゃまるで本当に…くノ一みたいだよ』
なんか…昔観てた某剣客アニメに出てきた忍集団の女の子の格好に少し似てるな。
『髪は…上げた方がいいかな』
最後に羽織を着て、私は着衣室を出て近藤さんにその姿を晒す。
『ど、どうでしょうか?』
近藤「おお!なかなか似合っているじゃないか!やはりこの着物にして正解だったな!」
瞳をキラキラさせて感心する近藤さんに、私は少し面映くなる。
近藤「実はな、君にもう一つ贈りたいものがあるんだ」
『?』
近藤さんは私に背を向けると、入口に置いてあった長い風呂敷を手に取り戻ってきた。
そしてそれを私に差し出し、私はそれを受け取る。
近藤「開けてみるといい」
『………………』
促がされるまま、包んでいる風呂敷を解くと、そこには…
『これって…刀?』
近藤「君は剣術の心得があるのだろう。いざという時に、これで身を守るといい」
ニコニコする近藤さんだが、私は刀に目を落としたまま。
『………………』
私は…既にこの刀の斬れ味を知っている。
斬ったときの感触も、斬られた感触も……この手で、この身で体験しているのだ。
木刀しか扱った事のない私が、真剣を握る事になるとは…
前の私には考えられない事だ。
『…ありがとうございます。大切に使わせていただきます』
近藤「ああ。今度トシが出張から戻ってきたら、今後の君の扱いも改めて考えるとしよう」
『わかりました』
そうして近藤と別れ、私も部屋へ戻るため道場を出る事にした。