現世の心
□第六話
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古高俊太郎を捕縛したその日の夜。
土方さんと近藤さんの号令で、屯所内はばたばたと騒がしくなった。
広間に集まった隊士は…近藤さんら幹部、そして私を含めてたったの三十五名。
ここのところ、気温が高いせいで隊の半数以上が体調を崩しているそうなのだ。
そして……
斎藤「動ける隊士が足りていない。近藤さんの隊は十名で動くそうだ」
原田「俺ら土方さんの隊は二十五人だったか?
…隊士の半分が腹痛って、笑えないよな」
そう言いながらも、本人の顔は笑っている。
今夜行われる可能性の高い会合の場所として、四国屋と池田屋の二つが上がっている。
近藤隊は池田屋で、
私たち土方隊が、本命と思われる四国屋へ向かう事になっている。
こういう歴史に関しては疎いから、どっちが本命なのかわからないんだよね…
『(こんな事ならちゃんと勉強しとくんだった…)』
歴史を変えるつもりはないけど、まぁ…多分教えた所で誰も信じる人はいないだろう。
原田「……そういえば、あいつらは使わないのか?夜の任務だし、打ってつけだと思うんだが」
不意に、原田さんが口を開く。
"あいつら"…?
原田「お前らが減らしたけど、まだ何人か残ってる筈だろ?」
斎藤「しばらく、実戦から遠ざけるらしい。調整に手間取ってるときいたが……
血に触れるたび、俺たちの指示も聞かずに狂われてはたまらん」
『……!』
血に触れて狂う……
私はその言葉で思い出したくなかったあの"存在"を思い出す。
原田「……奴らも浮かばれねぇな。戦う為に選んだ道だろうに」
斎藤「左之。浮かばないと言う表現は、死んだ者に対して使うものだろう」
原田「…ああ、確かに死んでねぇよな。
むしろ滅多なことじゃ死なねぇし
」
『……………』
私は、音を立てずにその場を離れた。
……これ以上は聞かない方がいい気がする。
ふと部屋の隅に千鶴が耳を塞いで蹲っているのが見えた。
恐らく、彼女も斎藤さんと原田さんの話を聞いてしまったのだろう。
『(多分、声掛けたら二人に気付かれるよね…)』
幸い、彼らは私たちの存在に気づいていないらしいが、少しでも音を立てれば気付かれるだろう。
酷だが、私は声を掛けずに広間を出ることにした。