現世の心

□第六話
1ページ/6ページ




古高俊太郎を捕縛したその日の夜。


土方さんと近藤さんの号令で、屯所内はばたばたと騒がしくなった。


広間に集まった隊士は…近藤さんら幹部、そして私を含めてたったの三十五名。

ここのところ、気温が高いせいで隊の半数以上が体調を崩しているそうなのだ。


そして……



斎藤「動ける隊士が足りていない。近藤さんの隊は十名で動くそうだ」

原田「俺ら土方さんの隊は二十五人だったか?
…隊士の半分が腹痛って、笑えないよな」


そう言いながらも、本人の顔は笑っている。


今夜行われる可能性の高い会合の場所として、四国屋と池田屋の二つが上がっている。

近藤隊は池田屋で、
私たち土方隊が、本命と思われる四国屋へ向かう事になっている。


こういう歴史に関しては疎いから、どっちが本命なのかわからないんだよね…


『(こんな事ならちゃんと勉強しとくんだった…)』


歴史を変えるつもりはないけど、まぁ…多分教えた所で誰も信じる人はいないだろう。


原田「……そういえば、あいつらは使わないのか?夜の任務だし、打ってつけだと思うんだが」


不意に、原田さんが口を開く。

"あいつら"…?


原田「お前らが減らしたけど、まだ何人か残ってる筈だろ?」

斎藤「しばらく、実戦から遠ざけるらしい。調整に手間取ってるときいたが……

血に触れるたび、俺たちの指示も聞かずに狂われてはたまらん」

『……!』



血に触れて狂う……


私はその言葉で思い出したくなかったあの"存在"を思い出す。


原田「……奴らも浮かばれねぇな。戦う為に選んだ道だろうに」

斎藤「左之。浮かばないと言う表現は、死んだ者に対して使うものだろう」

原田「…ああ、確かに死んでねぇよな。
むしろ滅多なことじゃ死なねぇし


『……………』


私は、音を立てずにその場を離れた。

……これ以上は聞かない方がいい気がする。


ふと部屋の隅に千鶴が耳を塞いで蹲っているのが見えた。

恐らく、彼女も斎藤さんと原田さんの話を聞いてしまったのだろう。


『(多分、声掛けたら二人に気付かれるよね…)』


幸い、彼らは私たちの存在に気づいていないらしいが、少しでも音を立てれば気付かれるだろう。


酷だが、私は声を掛けずに広間を出ることにした。
次へ
前の章へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ