現世の心

□第六話
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すると、氷室は窓に向かって歩き出した。


斎藤「待て、何処へ行く気だ」

氷室「興が冷めた。この続きはまた今度にしておこう」


不意に、氷室が私を見つめる。


氷室「…どうやら、その目の"傷"は未だに健在のようだな」

『!?』


氷室はフッ…と笑うと、再び窓に向かって歩き出す。


斎藤「逃がすか!」


斎藤さんが後を追おうとした直後、氷室の姿が強い風に包まれて消えていった。


斎藤「なっ…!?」


辺りを見回すが、氷室の姿はどこにも無い。


斎藤「……………」


どこにも気配がしないのを察すると、斎藤さんは私の傍に駆け寄った。


斎藤「大丈夫か、鈴風」


彼は心配そうに声を掛けるが、私は俯いたままで、返事をすることができなかった。


『……………』




頭が、ぐるぐるする。




『なんで…』

斎藤「?」


俯いたままポツリと呟く私に、斎藤さんは耳を傾ける。


『氷室 蜃…

あいつ…私の名前だけじゃなく、母さんの事まで知ってた…
私が持っていた筈の母さんの形見まで持ってた…

それに……』



私は右目を隠した前髪に触れる。


『"傷"の事まで知ってるなんて……

あいつは一体……何者…?』


私も母さんも未来の人間だ。
幕末時代の人間が未来の人間の存在を知っているなんてあり得ない。

なのに…どうして……



その時、ズキン…と右目に激痛が走る。


『痛っ………』

斎藤「おい、どうした!」



ーーーーーーーーー


*斎藤視点*


独り言のような事を呟いていたかと思うと、急に彼女が右目を押さえて蹲り出した。


斎藤「一体どうした、鈴風!」

『い、た……い』


必死で痛いと主張する彼女。

どういう事なのか分からぬが、右目が痛むというのは間違いない。


斎藤「診せてみろ」


俺は鈴風の右目を診ようとするが…


『いやっ……みないで……!』


頑なに押さえる手を退けようとしない。


斎藤「しかし診なければ原因が分からぬ。いいから診せろ」

『い、やっ………!』


そして、二度目の拒絶をした直後………
彼女の体が畳に伏せる。


斎藤「!…鈴風!しっかりしろ!」


俺は彼女の体を揺すりながら名をよぶが、彼女は目を開けない。


斎藤「鈴風、鈴風…!


瑠樹!しっかりしろ…!」



ーーーーーーーーーー



*瑠樹視点*


斎藤「診せてみろ」


激痛で悶える私に、斎藤さんは右目を診せろと言ってきた。


『いやっ……みせたくない……!』


私は悶えながら彼の手を拒絶する。


駄目っ……これだけは絶対に見られたくない………!


斎藤「しかし診なければ原因が分からぬ。いいから診せろ」

『いやっ………!』


私は伸ばしてきた斎藤さんの手を振り払うと、途端に意識が遠のいていき、そのまま床へと倒れ込んでしまった。


斎藤「!…鈴風!しっかりしろ!」


側で斎藤さんの声が聞こえるけど、力が入らなくて瞼が開けられない…


斎藤「鈴風、鈴風…!


瑠樹!しっかりしろ…!」


あ……斎藤さん名前で呼んでくれた…



必死で私の名前を呼ぶ斎藤さんの声を聞きながら、私は徐々に意識を手放していくのだった……





第六話、了
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