現世の心

□第三話
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沖田「お待たせ」

永倉「おせーぞ。この俺の腹の高鳴りをどーしてくれんだ」

『ごめんなさいお二人共。遅くなってしまって』

千鶴「すみません私のせいで」


私と千鶴は二人に謝罪しながら広間へ入る。


原田「別にいいじゃねぇか。ほら、早く座れよ」

千鶴「はい」


そして千鶴は原田さんと永倉さんの間、私は斎藤さんと沖田さんの間に座った。


斎藤「いただきます」

永倉「しっかし、今日も相変わらずせこい晩飯だな。
というわけで!」

平助「あっ!ちょっと新ぱっつぁん、なんで俺のおかずばっか狙うかな!」

永倉「はっはっは、それは体の大きさだ!大きい奴にはそれなりに食う量が違うんだよ!」

平助「じゃあ育ち盛りのオレはもっと食わないとね…って、ああ!」


甘い!と言わんばかりに永倉さんは平助君に奪われる前にメザシを丸ごと齧る。



また始まったよ……この二人の弱肉強食の争奪戦。



原田「毎回毎回、こうですまねえな」

千鶴「いえ…もう慣れましたから」


二人の隣で御飯を食べる千鶴にはなんとも哀れに思う。


『それに比べてこっちは平和ったらありゃしない…』


斎藤さんは規則正しく食事してるし、沖田さんは二人の合戦を横目で見ながらちびちびとお酒を呑んでいる。


でも……



『(みんなでこうやって食事をするのって…なんだか楽しいかも)』


二年前までは父さんと二人きりだったし、父さんが亡くなってからはずっと一人で食事を取っていたから。

そんな私は、無意識に頬が緩んでいる事に気がつかなかった。


斎藤「何をそんなに笑っている?」

『えっ?』

沖田「あれ、もしかして自分で気づいてなかったの?」

『えっ、そんな…私、笑ってましたか?』

沖田「うん、楽しそうにね」


嘘、私、顔に出てた!?


紅く染まる頬を手で覆い隠す。


斎藤「別に恥じる事は無い。笑う事は悪くはないからな」

「は、はい…」


私は苦笑を浮かべながらこの二人の間で静かに食事を再開すると、広間の襖が開いた。




井上「ちょっといいかい皆」


入ってきた井上さんに全員の目が集まる。


井上「大阪にいる土方さんから報せが届いたんだがな…


山南が、隊務中に重傷を負ったらしいんだ」

千鶴「え!?」

『山南さんが…!?』


一斉に、全員が息を呑む。


千鶴「それで、山南さんは?」


井上「「相当の深手だ」と文に書いてあるが…傷は左腕との事だ。剣を握るのは難しいが、命に別状は無いそうだ」

千鶴「良かった…」


井上さんの言葉に安堵する千鶴。

だがみんなの顔はまだ沈んでいた。


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