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□□square□‥‥4[多角的渦]
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学校の教職員用入口より程近い自転車置き場は、まず教職員しか使わない事と、校門から距離がある事も手伝って生徒達は近寄らないし、車通勤の職員も多いため、人気の無い場所だった
その自転車置き場の簡易的に作られた屋根の下、たたずんでいたのは自称銀八ファンクラブ会長のさっちゃんこと、猿飛あやめである。
出待ちならぬ出勤待ち、銀八の出勤時間5分前には彼女は此処で待機している。
そんな彼女は本日少しばかり早く着き過ぎてしまっていた、銀八は現れるのはまだ20分ほどある。
しかし時間を持て余すなどという事は無い、銀八とあったその瞬間にどう己をアピールするか、ソレに心躍らせるのならソレぐらいの時間はあっという間に過ぎ去ってしまう。
今日は物陰から見つめる少女…いえ、そんなありきたりでは先生の心は掴めない…もっとセンセーショナルな…
どこからとも無く縄を取り出して絡まったりしては思案を巡らすさっちゃんの耳に、エンジンの音が響く。

とっさに身を隠すもののそれは銀八のスクーターの音では無かった。
排気量がまるで違う、もっと重厚なそれに落胆して顔を覗かせればソコに居たのは近藤だった。
そして、1人では無かった、ヘルメットを脱いで後に乗せた男に手を伸ばす。
近藤に比べれば小柄なその男はこの高校の制服を着ている。
ヘルメットを外して、近藤へとソレを渡す男、それはさっちゃんも見知った人物である高杉晋助だった。
2年の時には同じクラスだった高杉は、銀八ファンたるさっちゃんには目の上のたんこぶだったのだ。
よく問題を起しては銀八の手を煩わせ、その目を引き付けていたのだから面白いはずが無い。
銀八が煩わしく思っていたかは別として、さっちゃんの目にはそう映っていたのである。

なんで高杉と近藤先生が…。
眼鏡を持ち上げてその二人をよくよくと見るさっちゃんの眉間には疑問に皺が寄る。
高杉の現担任である近藤が一緒にいるのは別におかしくは無いが、どうも雰囲気が変だ。
クラスも離れてほっとしていたから、最近高杉に関してはノーマークだったが、覗くさっちゃんの頭はその興味からか大分はみ出していた。
それに、元来人の気配というものに敏感な高杉が気が付かないはずも無いのである。
ヘルメットを片付ける近藤の後ろで高杉は薄く笑った。

「なァ先生、キスしてくれよ」
「へっ?!」

振り向く近藤の素っ頓狂な声、此方の会話は距離からして物陰のさっちゃんには聞こえないだろうと高杉はあたりをつけて近藤に迫った。

「…してくれよ」
「…いや、でもこんな外で…」
「誰も見てねェよ…」

「……えーと…」
「……、して。」

それはおねだりというよりはもはや命令に近い脅迫で、言葉を詰まらせた近藤は軽く唇を押し当てて体を離すとそのまま逃げる様に校舎へと向かった。
去っていく近藤を見送って振り返る高杉は身を隠したさっちゃんへと声をかけた。

「久しぶりじゃねェか、猿飛」
声が近づいてくるのに完全に見つかったと観念してかさっちゃんは物陰から姿を現した。

「久しぶりね、高杉君、もっとも会いたかったわけじゃないけれど」

その皮肉には何も返さずに駐輪場の屋根を支える柱にと背中を預けた高杉とさっちゃんの距離は一メートル程、横目にさっちゃんを捉える。
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