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□安息の居場所
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頬からどろりと返り血が垂れる。
見つめる先は地べた、そこに這いつくばった生命
ひゅうと、か細く肺から空気がもれる音をたてて横たわるソレを見下ろして、おもむろに間をつめた。

垂直に心臓めがけてそのすでに血に濡れた切っ先が肉に潜り込む。
苦悶に満ちた空気の震える音をソレはたてなくなった。



漆黒の髪ははねた血に固まってべっとりと濡れた服
剣から滴って血液がその手を赤く染めた。

それでも鮮烈なまでに美しく、抜き身の剣を赤く輝かせて、鬼は立っていた。

俺は何も言わないでその後に…たつ。

ピクリとして振り返るその眼光は鋭く、射抜くような、感情も、甘さも殺ぎ落としたある種の凶器…

でも、ほら、この瞬間が好き…
俺の姿を見とめると、全身に纏った研ぎ澄ました刃物のような殺気を…ふっ、と…解きほぐしてくれる。

そして…

「山崎…」

名を、呼んでくれる…


大体俺のもってくる情報はこの人に真っ先に入る。

特にこういう血生臭い、汚い仕事を、副長は進んで自分で片付ける
秘密裏にやることも多い。

そして、こういう仕事の後の副長は大抵ものすごく殺気立っている。
ただ普段怒っているときとはまた全然違う…

静かな静かな殺気…
全身に走る衝動とその殺気をなんとか押し留めて、平静を取り戻そうとしている。
こんなときの副長には、隊士達は勿論、沖田隊長も近づかない。
それは、暗黙の了解なのか、戦闘中は傍にいるのに、終れば少し距離をとる。
なんでだろうかと考えて、この二人はそういうところで同じだからだと、そう思った。

殺気だった感情を押さえ込むのに、同じように全身に殺気を纏ったままで、ソレを隠そうともしない沖田隊長の前では気を張り続けてしまうようで。
ソレをわかってて、隊長も近づかないのだろう。

だから、副長がふっと気を抜いてくれるこの瞬間は、俺だけのもの。
だから、この瞬間副長のすぐ傍に立てるのは、俺だけの特権。
たまらなくうれしいんだ、きりきりと張り詰めた空気をふっと開放してくれる…その瞬間が。

「殺っちまった、」

「もう、肺もやぶれてましたから、つれて帰っても、はかせるまで持たなかったと思います。」

ほっといても死んだであろうテロリストに手早くトドメをさしたのは安息を与えるため…
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