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□□square□‥‥3[多角的渦](
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朝方目を覚ました男、近藤勲は自分の腕の中のぬくもりに、まどろむ思考を覚醒させると同時硬直させていった。

あぁ…こんな、こんなことが有るわけが無い、そしてあってはならない。
そのまま凍らせてしまいたい思考回路をなんとか引き起こして身体を起こす。
思いの他力の入ってしまった身体は脊椎反射のようにびくりと跳ね上がり、その身体に申し訳程度にかけられていたタオルケットを
落とした。

現れるのは裸体の、正確には肌蹴たシャツ一枚の己と、その横に横たわる生徒、完全に一糸纏わぬ高杉の姿だ。

否定したい、否定しなくては、こんなはず無いのだ。
そう巡る頭の中の叫びは、あたりに微かに残る精液のにおいによってほぼ否定に仕様も無いが、そこはそれ。
否定させてくれ!!!
なんだか下半身がすっきりしてるんですけどもそれも無視させてくれ!!
叫び出したいのを辛うじて飲み込んだのは、隣に寝ていた高杉が寝返りを打ったからだった。

「…んっ…」
うすく開く瞳に、近藤は座ったまま後へと後ずさる。
側に転がっていた缶ビールの空き缶が軽い音をたてて転がった。

「高…杉…。」

「…センセェ…おはよ。」
罪悪感と入り混じる複雑な思いに困惑気味の近藤が漏らすその不安げな声とは対照的に、高杉の声は落ち着いていた。
そして別段コレといって気にした様子も、取り立てて驚いた風でもない。

もしかして本当は何にも無かったのだろうか…。
状況からしてそんなわけは無いのにそれでもそんな事を思ってしまうのは、そうだったらどれだけいいかと願うからだろう。
そして、そんな都合のいいことは普通起こり得ない。

「あんたさぁ…デケェのな。まぁ…粗チンよりゃいいけど。」
さらりと言ってのける高杉のその一言に近藤の淡い期待は打ち砕かれる。

「…何呆然としてんだよ?」
「……いや、その…だな、俺達は昨夜…何を…」

「何をも何も、付き合うって約束したじゃねぇか」
「…はぁ!?つ、付き合う?!」
素っ頓狂な声をあげる近藤に対して高杉はいたって冷静で、その口元に薄く笑みさえたたえていた。

「アンタが俺の事放って置けないって、側に居ろって…言ってくれたから…俺のモンになってくれるって約束してくれたから、俺はアンタに抱かれたんだぜ?」
「…抱かれ…っ…」

「…センセー?…まさか、覚えて…ねェの…?」
緊張に言葉を詰める近藤がその体を硬直させるのを見て取って、高杉は近藤へと詰め寄る。
「…い、いやっ…」
「…ただの、酔った勢いで俺の事抱いたのか…」

焦る近藤を追い詰めて、決して逃さず、その声は責める様であり、悲しみを押し殺した様でもあった。
ただ、落ち着いて傍から見れば白々しくもあったかもしれない。
それらは全て作り事、事実無根の訴えと要求、ただ記憶の定かでない近藤に、この状況でぶつけるには十分な芝居ではあった。

「…そ、そんな訳ないだろうっ!!覚えてるっ勿論!!酔った勢いとかじゃ絶対無いっ!」
高杉のその瞳の前に近藤は口元の引き攣るのを抑えることも出来ぬままそう宣言してしまった。

しばし悲しげに睨み付けていた瞳が緩解を見せるのに近藤は深く息を吐き出す。
「そ、だよな…センセーがそんな酷い奴な訳ねェもんな…」
ほっとしたように息をついてそのまま近藤の胸板へと額をつけた高杉は、近藤からは死角であるそこで口角をくっと持ち上げた。

この男の性格からして、やっと心を開いてくれた生徒に手を出したなどということ自体大変な罪悪であろうに、自分を慕うその生徒をこれ以上傷つけたりできるはずが無い。
容易く予測の付く事とはいえ、しかしこうも簡単に思い通りになるとは、やはりこの男は底なしに単純、単細胞だ。

「センセー好きだよ…アンタが居なかったら俺…」

やっぱり覚えてないなんて言わせない。
きっちり釘を刺して、敢えて最後までは言わない。

「…抱きしめてくれねェの…?」

垂れ下がったままだった近藤の太い腕が力なく肩を抱くのに、高杉は小さく笑みをみせる。

あぁ…きっと面白くなる…。
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