SS

□罠
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中間試験を終え、テスト休みムードに一気に沸く教室、独特の開放感に包まれた教室の生徒の引きは早く、皆各々に打ち上げと称した息抜きにと繰り出す。

それは土方とて同じこと、部活も無いその日、家に帰ってゆっくりしようと荷物をまとめた土方はカバンにそれらを突っ込んで席を立った。
ふと、教室の戸が開くのに顔を上げれば、そこには神妙な顔つきをした担任の坂田銀八が立っていた。

「先生、どうしたんすか…?」
「……、土方、お前これどーいう事だ?」
「…?」

机にばさりと置かれた数枚の白い紙。先程まで皆が必死に取り組んでいたテストの答案用紙だった。
無記入のその紙を見つめてゆっくりと銀八へと視線を戻す土方に注ぐ相手の瞳はどこか責める様な色を含んでいる。

「…これが…何すか?」
「何でテスト白紙でなんて出す?」

「…はぁ?!」
あまりにも突飛な相手の言葉に土方は思わず素っ頓狂な声をあげた。
何をいっているのかさっぱりだ、テストを白紙で出したなんて身に覚えが無い。

「はぁじゃねーよ、お前の答案、全部白紙なんだよ。どーいう事かってこっちが聞いてんだ。」
「ちょ…待ってください、俺っ、白紙でなんか…っ」

「お前の名前が入った答案がねぇんだよ。他のは全員分揃ってる。そん中に白紙が混じってたんだ。お前のじゃなきゃあ、なんだ?」
「そ、そんなこと言われても…っ俺全部書きましたっ…!名前もっ…ちゃんとっ」

困惑する土方に銀八の視線は突き刺さるようで、さらに胸が早鐘を打つ。

「とりあえず、話は聞いてあげるから、後で理科準備室に来い。」
きびすを返して出口へを向かう銀八の背中を、困惑を隠しきれない表情で土方見送った。

一体どうなっている?これは…?
全く検討のつかぬままにカバンに教科書を押し込めば、土方は慌てて教室をでる。
何が何でもこの状況は解決しなくてはならない。


重苦しい決意を旨に、理科の教員である銀八の根城へとやってきたのである。

理科室の隣に付属された教員の控え室、教員用の机が四つ向かい合うように置かれている。
職員室の他に、授業の準備などに使われる言わば分室と呼ばれる部屋だった。

各々の性格が現れる机を見れば、銀八の机などすぐ知れた。

ばさっと白紙を机に投げ出した銀八はどかっと椅子に腰かけて、隣の教員用の椅子を指差して座れと促す。

「……先生、俺本当に…」
「…でも実際に白紙で出てる以上お前単位おりねーよ。普通に留年だわ、これじゃ。」
「そんなっ…先生っ俺本当にやったんですよ?!こんな訳ありません!」

「ありませんって言われてもな…」
「……っ〜…何で…」

重々しい空気、ぎしっと椅子が軋む音がやたらと耳に響く。

「…なんとかしてやろうか…。」
「…っ本当ですか?!!」
俯きがちだった顔をがばっと上げて銀八を見やれば溜め息混じりに側頭部をかいて銀八の目が土方の姿を捉える。
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