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□優しい沈黙(仮題)
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奥の座敷を取り、濡れた服を着替える。

沖田が屯所には戻りたくないと言い張った為の苦肉の策と言ったところか…ずぶぬれで現れた客に店のものは一瞬困ったような顔をしたが、二人の顔を知る女があげてやれと口ぞえてくれた。
着替えは持ってきてるから、と付け加えてあがれば部屋に通される。
芸者が数人かでやってきて、着替えを手伝ってくれるものの沖田はいまいちいい顔をしない。

そりゃ…そんな気分でもないのだろう。

話を通して、女達は下げてもらうこととした。
顔見知りの女はいろいろ融通してくれ、その代わりにとまでは言わぬものの土方はんに宜しゅうにと甘い声で囁いた。

解かってますと愛想良く返事をして、酒といくらかつまみを注文すれば女は上機嫌に去っていく。
この部屋の指名は彼女になっているのに、実際には放っておけばいいのだ、他の客を回れるのだからそれもうなずけた。
ましてや彼女のお気に入りの客であった土方に口利きしてくれるというのだから。

どうやら最近土方はここを訪れないらしかった。
寄っても接待に使うくらいで個人的には着てくれないとぼやいていた女の後ろ姿を見送ってからぴしりとふすまをしめて振り返る。

「…隊長?」
そこにはむっつりと沖田がふてくされて座り込んでいた。
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