SS

□交錯球環
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別にぶつかったわけでも、足を引っ掛けたわけでもない。
たまたま目の前に、しかも本当にすぐ足元にガキが一匹すっころんだという事実があるだけだ。
しかしこれが、調度進行方向を妨げる形でつぶれており、ソレをまたいでまで無視するというのもどうなのだろうかという気にはさせる状況だった。
加えて言うならば、消毒と包帯…ついさっき換えのものを買ったばかりで調度手に下げた袋の中に入っていたこと、そして、今日はそう虫の居所が悪くなかった。
少なくとも、目の前のガキを蹴り飛ばすのではなく、抱き起こしてやるくらいには…だ。

「泣くな…うるせぇよ…」
「…っう…ぃ…うぇ」

「足出せ、足」
嗚咽をかみ殺そうとしゃくりあげながら見上げてくるその子供は、膝をすりむいているくらいでたいした怪我でもない。
包帯を巻くのは大げさだろうと思う程度のものだったがあいにくと絆創膏などは持っていないのだから仕方ない。

消毒液を吹きかけてやれば傷口に付着していた細かな砂も共に流れ落ちてそこには皮下の鮮赤色の組織が覗く。
ソレを見つめて、その赤々とした肉に怯えたのかその子供の顔色はみるみる曇っていく。
ガーゼを裂いてソレをふさいでやり上から包帯を巻いていく。

びっとなんとか手で包帯をきって包帯止めを引っ掛けてやった。

「おら、これで大丈夫だろ…」
「おいちゃん、上手だね」
均一に撒かれた包帯をみて子供が感心したような口調でそういって、舌ったらずにありがとう、と礼をいった



おいちゃん………って……俺か???


なにやら軽いショックを隠しきれずしばし固まっていればその女の子は散らばってしまったガラス玉を拾い集めだす。
まぁ…3、4歳の子供からみれば成人男性は皆おっさんなのだろう…

「おいちゃん」

「あぁ…?」
「これ、あげゆ…」
小さな手が突き出されて、そのあまりの小ささと弱々しさに思わず手を出せば、握りこまれていたガラス玉がころんと手のひらに置かれた。

「一番大きいの、宝物よ」
そういって笑って見せた女の子がくれたのは色とりどりのガラス玉の中では確かに一番大粒の無色透明のものだった。
それとも違うのがいいかと聞いてお店を広げ始めた女の子を制止して、いや、いいと言ってやった。
いらない、という意味で言ったのだが、それは、コレでいいという意味にとられたらしく、そのガラス玉は高杉のものとなったのである。
これ以上つき合わされるのもごめんだったし、貰ってやれば話が早そうだったからそれ以上突っ込むのをやめれば女の子は納得してガラス玉をしまい出す。
色もとりどりのそれは、形もデザインも皆異なっており、拾ったにせよ、交換したにせよきっとそこかしこから集めたものなのだろうということを思わせた。

手を振ってまた走っていく子供の足取りはやはり危なっかしいがソレを見送るのは止めて高杉も宿への岐路を急いだ。
またすっころばれたら、たまったもんじゃない。
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