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□□square□‥‥3[多角的渦](
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近藤勲が高杉晋助と名目上にも付き合う、という事になって数日が過ぎていた。

今朝も近藤はその、高杉の住むアパートへとやってきた。バイクから降りてヘルメットを外し、アパートを見上げる。
付き合う事になってから毎朝、近藤は高杉を迎えに来ていたのである。
それは高杉の要望だった、ちゃんと授業出るから迎えに来てくれよとの要請に熱心な教師である近藤がノーと言うわけも無い。
だが、それも特殊な事情が無ければこうも足は重くないのだが…近藤は胸中呟いて溜息にもみ消す。
鉄板の安い造りの階段、塗装のはげて錆びたそれを上れば二階の奥から3番目、其処が高杉の部屋だった。
取り出した合鍵はあの日受け取ったもの。
チャイムなんか鳴らしても起きないからと預けられた物だ。
部屋ははっきり言って狭い、安アパートと言って差し支えないその部屋の奥、ベッドに高杉は寝ていた。
どこか寒々しい和室、適当に散らかった物を避けながら近藤は高杉の下へと足を運ぶ。
特に物は無いのに散らかっているという変わった条件の部屋だった。
家具などは本当に少ないが、服やらが散らかっている。

「高杉…、高杉。起きろ。朝だぞ、学校行くぞ。」
ベッドのすぐ横に立って声をかければ割とすんなりと目蓋を開いた高杉は体を動かさぬままに視線だけで近藤を捕らえる。

「…眠てェ」
「…あのな、寝巻き着て寝ろって言ってるだろ」
惜しげもなくその肌を晒して横たわる高杉に、畳に落ちたタオルケットを引き上げてかけてやりつつ近藤は溜息を吐き出す。

「ちょっと早いんじゃねェの…今日は」
近藤の訴えなどまるで聞かずに、投げ出された携帯電話を拾って高杉は欠伸を一つする。

「それは君が用意に時間掛かるからだよね!眼が覚めてから30分は動けないとか、シャワー浴びねーと死ぬとか言うからだよね!」

理不尽な苦情にやけくそ気味に近藤の喚くのも気に止めず、高杉はかけられたタオルケットを巻き込んでころりと寝返りを打つ。

ここから暫くは高杉は起きて来ないのをここ数日で学んだ近藤は、ベッドから離れて流し台の前に立つ。

幸いかどうかは別として、今日は時間があるから何か軽く朝飯でも用意しようと冷蔵庫を開けた。
見事にすっからかんの冷蔵庫には明かりだけが点っている。
無言で冷凍庫に手をかけるも結果は大して変わらない。製氷皿と冷蔵庫の壁面に張り付く霜、それとかちこちに冷え固まったチョコレート、それを包むビニールのフィルムがぱきっと折れるかと思うくらいに凍り付いている。
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