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□□square□‥‥3[多角的渦](
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溜息をついた近藤が視線を移すとシンクのすぐ横にラップの掛かった皿が一つ。
手にしてみれば中には煮物が入っている。
調理した様子はないし、もらい物かと思えるそれには手をつけた形跡は無かった。

高校に入った時に1人暮らしを始めたと言ってた高杉に、この部屋を借り与えてたのは親だろう。
古びた1DKに1人押し込められたという印象を受ける。別に貧しいわけではないのだ、実際高杉の生活を見る限りそういう印象は全く無かった。
どっちかといえば金の使い方は荒い。
だからこのアパートをみた時には驚いたくらいだ。

なんというか、愛情というものの感じられないこの部屋で、その皿の中味は異質だった。

「…何してんだよ…」
皿を持ったまま立ち尽くす近藤に不意に後ろからかけられた声、びくっと肩を震わせた近藤は皿を取り落とす。
鈍い陶器の割れるそれと水物の潰れる音。

「…あっ…す、すまんっ!」
「…何してんだか」
上ずった声で謝る近藤に高杉は小さく息を吐いて、側へと足を運ぶ。
近藤の足元にかがみこんでその割れ物を拾い始める高杉に近藤は動けずにいた。
弁当のパッケージのゴミが突っ込んであったコンビニの袋に、陶器も中味も一緒にぶちこんでいく高杉に、はっとして近藤もしゃがみ込んで割れ物に手を伸ばす。
「…すまん…」
「…いーよ、別に。どーせ食わないし」

「…高杉、ゴミの分別とか…」
「ウルセェ…っ」

近藤の注意に煩わしそうに視線を投げてきた高杉の眉が一瞬顰められる。
ゆっくりと手をあげたその指先には血が赤く珠を作っていた。
「だ、大丈夫か?」
手を覗き込むように顔寄せた近藤の唇の前にその指先を運んで高杉は近藤を見つめた。

「大丈夫じゃねェ…。舐めてくれよ。」
薄く浮かべられた笑みに戸惑うも、ことの発端は自分にあると、近藤は舌を這わせる。
小さな血の珠と、煮物のだしの効いた甘みとしょっぱさが口内に混じる。

「……。」

「…俺、風呂入ってくるから、後宜しく」
複雑な顔をした近藤を尻目に、高杉は立ち上がると風呂場へと向かった。

複雑に眉をよせたままの近藤はとりあえず手だけは皿を片付けていた。

深い溜息と共に、今日も一日が始まる。
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