long〜Timeless

□溺れた街に
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「ねぇ、君はさ、俺の言うことにどこまで応えられるのかな」


ダラーズの初集会の翌日、臨也さんに言われた一言。


彼は三角形の将棋盤に向かい、一つの駒を弄びながら言った。



それは、私が駒としてどの程度使えるのかを聞いているのか。


そして、その手に持っている駒が私とでも言うのか。



「内容にもよりますけど…

…まぁ、他人を傷付けるようなことはしたくありませんね。知り合いというか、私の基準で大切な人に対しては尚更ですが」


鋭い視線を彼に送り、若干語気を強めて言う。


『私の基準』

ここが重要だ。


臨也さんの基準ではなく、私の基準。


そこには彼の天敵である池袋最強の男と呼ばれる男も含まれているのだが。



当の彼は「怖いねぇ」などと、大して怖くもなさそうに言い、その駒を自分のポケットにしまった。


ちょうどその時チャイムが鳴り、


―――波江さんかな…。



玄関に出ると、案の定彼女がいた。



「どうぞ、入ってください」


「彼、ロリコンだったのね…」

玄関先で私が出迎えると、彼女は驚いたような顔をして言った。


先ほどと同じ場所に戻ると、そこには客人をいつもの貼り付けたような笑みで迎える臨也さんがいて、


「ロリコンとは心外だな…。彼女、実際は今年で18なんだよ?まぁ、体の方は16歳なんだけど」

きっと言葉面だけ聞いてもわからないだろう。

実年齢が18歳で体は16歳だなんて。

ちょっとしたコナン現象である。


波江さんは全く興味がないのか、「そう」とだけ呟いた。



「あと、彼女の名前は折原未来ね。一応、俺の従妹ってことになってる。まぁ、君には言ってもいいと思うから言うけど、これは戸籍上でそうであるだけで実際は赤の他人。ここ重要ね。んで、訳あってここに住んでるってわけ」


やはり、波江さんは興味がなさそうにしつつも、心做しか私に哀れみの目を向けたような気がした。



「んで、このまま行けば彼女は俺のお嫁さんになる」


「意味がわかりません」

今回こそ確実に波江さんは私に哀れみの表情を向けた。



「まぁ、それは置いといて…


直接会うのは初めてだよね?不法入国者とかのリストは役に立った?」

臨也さんのことを半ば睨むようにして見つめている波江さんに対しその本人は将棋盤に視線を注いでいた。


その駒の配置の意味がわかってしまう私としては、あまりいい気分ではないのだが、とりあえず彼女に客人用の紅茶を出した。



「しかしアンタも馬鹿なことをしたねえ。弟の歪んだ恋心の為にすべてをフイにしてっと。いや、むしろ弟への歪んだ恋心かな?」


盤上にオセロのコマがうたれた。


「上は黙ってないんじゃないの?ネブラと言ったら外資系の大企業、いや、超企業じゃない。アメリカで凄いブイブイ言わせてるさあ」


次はオセロのコマをもう一つ置いて、二枚の黒に将棋の歩兵駒がはさまれる。


「はい、ナリっと」

ただの歩兵駒がと金に変わる。

あれは、きっと帝人なのだろうか。


どちらにせよ、彼もきっとこれから臨也さんによって転がされていくのだろう。


かつて臨也さんによって大切な物を奪われた親友と同じように。


そう考えると、胸が痛んだ。



「でさあ。やばいんじゃないの?マフィアとか来ちゃうんじゃないの?もしくは凄腕のスナイパーなんかをスイス銀行経由で雇って、あんたの眉間をパーンっと。はい王手」


王将が一つ前に進められ、対面の王将に王手をかけた。



「ねえ、未来。どうすれば王将同士の一騎打ちができると思う?」


「ルールがうろ覚えなのでよくわかりませんけど、臨也さんならいくらでもゲームを転がせるんじゃないでしょうか」


私の言葉に込められた裏の意味を悟ったのか、臨也さんは私に微笑みかけた。


それから、初めて波江さんに視線を向ける。


彼女はとても憔悴しきった顔をしていた。
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