短編(main)
□名君家光の采配
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「新春特別企画」
−プロローグ−
広間に集まった大奥を代表する面々を見渡し、家光は自己満足に浸る。
家柄と品格なら申し分ない正室候補の鷹司と九条、……と紫京。
精悍さと色香を持ち合わせた夏津。
城下出身ながら、女たちの目を引くには充分な容貌の蔵之丞に、明るく屈託のない庄吾。
大奥の人間ではないが、強く優しい異母兄日向。
だがそれだけでは不足だ、と家光は常々思っていた。
「一体何の用だ。さっさと言え」
不快感を隠そうともせず口火を切った鷹司に、家光は口端を持ち上げる。
「大奥内で新年の宴を催す」
予定ではなく断言に鷹司が顔を顰めた。
「そこでお前たちには余興をやって貰うぞ」
「は?」
「えー、面倒臭ーい」
九条が興味無さげに大きな欠伸をする。
「大奥、いや城の中でもお前たちは別格――わたしの自慢だ」
「上様、僕には当然のことですが、他の者たちには勿体無いお言葉です!」
はしゃぐ紫京に夏津は凍りつくような視線を向けた。
「しかし、他人を喜ばせ笑顔にしてこそ一人前だと思わないか?」
「思うかよ。要するにお前は、俺たちに見世物になれって言ってんだろ」
「話が早いのは結構だが、身も蓋も無い言い方をするな」
「俺はご免だ」
「待て」
立ち上がろうとした鷹司を、家光が鋭い声で制した。
「ここに呼んだ全員に参加して貰うぞ。宴を一番盛り上げた組には、この家光の威信をかけた褒美を取らす。何でも望みの物を与えよう」
「それは正室の座でもよろしいのですか?」
「ななな夏津くん、なんてことを言うんだ!」
焦る紫京を完全に無視する夏津を、家光は見下ろす。
「構わない。お前がそれで納得できるならな」
「随分かい被ってくださるのですね」
夏津の射抜く視線を、婉然とした微笑を浮かべ受け止める家光。
「あの、家光さま」
遠慮がちに声を上げたのは広間の後ろ近くに控えていた火影だ。
「もしかして俺たちもですか?」
「あぁ、この場にいる全員と言っただろう」
火影の周りには、麻兎を筆頭に永光、緒形、稲葉、御右筆を務める榊までもがいる。
「報酬を考えれば優勝を狙うのみだな」
「わたしに出来るでしょうか……」
余裕の麻兎に、不安に顔を曇らせる稲葉。
「ふふふ、楽しくなりそうですね」
永光が妖しく微笑む隣で、榊が悩ましげに眉を寄せる。
「……余興について書かれた書物を至急探さねばなりません」
「おや、榊殿は意外とやる気になってますね?」
「家光さまのご命令とあれば最善を尽くすまでです」
緒形の言葉に榊は真剣な面持ちだ。
「心配するな、榊。余興は二人一組で演目も決めてある。各自新年会に向けて練習に励むように」
始まりと同じように広間にいる面々を見渡し、家光は一人悦に入るのだった
・・・つづく☆