短編(main)
□約束という贈り物
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鷹司は御門から差し出された、折りたたまれた紙片を見つめる。
「なんだよこれ?」
真っ白で、何の変哲もない紙だ。
几帳面に二つ折りにされたそれは、手のひらに収まるほど小さなものだ。
「早く受け取りなよ。…『礼(れい)』だって、言わなきゃわからない?」
「…礼?」
きょとんと目を瞬かせる鷹司に、御門は照れたように目をそらした。
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江戸城の鷹司の私室で、先のやり取りが行われる数日前。
京の御所では、上皇水尾が、御門と対峙していた。
「で、なんの用?京から出ろと言ってみたり、すぐに帰って来いといってみたり。ふりまわすのもいいかげんにしてくれない?」
不機嫌をかくそうともしない御門の様子に、水尾はくっと笑う。
手に持つ盃の酒が、笑った拍子に少し揺れた。
「久方ぶりの対面だってのに、そうすねるなよ」
「すねてないし」
水尾が御門に会うのは、実に三週間ぶり。
御門を召し抱えて以来、これほど長く顔を合わせないのは初めてのことだ。
「水尾が言ったんでしょ。『少なくとも三月(みつき)は帰ってくるな』って。まだひと月もたってないんだけど?」
「ああ、そうだったな」
「いいの?あいつら黙ってないんじゃない?」
朝廷では常に、『上皇派』と上皇とは対立する『天皇派』が権力争いをしている。
何かにつけて、水尾の失脚をたくらむ天皇派が、今回目をつけたのが御門の存在だった。
「水尾の立場が悪くなるよ?」
不満げに立つ御門の手に握られていた小さな数珠は、見る間に蛇に姿を変える。
かと思うと、水尾に向かって牙をむいた。
「こんなふうに喰われるかもねえ」
蛇は水尾の眼前で霧散する。まったく見事な腕だと、水尾は内心感心した。