短編(main)

□約束という贈り物
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『上皇はあの得体のしれない陰陽師の操り人形だ』という噂が、まことしやかにささやかれ始めたのが半年前。
そのうち噂は『水尾様は、術で体を乗っ取られているのではないか』ということになり、
最終的には『あの御門という男を始末するしかない』という話になっていた。

上皇に直接手を下す勇気はなくとも、御門ならためらいなく始末できる、というわけだ。
御門を始末した後、『術が解けない』とでも理由をつけて、水尾を幽閉すれば、計画は完遂される。

天皇派の手下ごとき、どうとでもできる御門だったが、
水尾は対立の表面化は望まず、御門に「事態が収まるまで、しばらく身を隠せ」と命じた。

「すべて解決した。もう大丈夫だから、今日からまた、ここで暮らせ」

「それって、命令?」

挑戦的な態度をくずさない御門に、水尾は、そばにおいてあった酒瓶を差し出す。

「お前には、心配かけて悪かったな。詫びの品だ。好きなだけ飲め」

「…別に心配なんか。俺はここの居心地が悪くなるのが面倒なだけだし」

口では興味がないように話す御門が、この朝廷にいる家臣の誰よりも、
水尾自身を思っていることを、水尾は知っていた。

(素直じゃねえな。ま、かわいいもんだけどな)

水尾は微笑むと酒瓶を引き寄せ、空の盃に酒を注ぐ。
それを御門に手渡すと、自らの盃も満たした。

「でも、酒はもらう」

「ああ、そうこなくちゃな。お前のために南蛮から取り寄せた、美味い酒だぞ」

水尾の言葉に、御門は黙ったまま盃を空けた。すぐに手酌で二杯目を呑む。
謝罪を受け入れた、ということだろう。

「ところで」

酒のおかげで、いくらか機嫌を直した御門が問う。

「解決したっていうけど、『御門を殺せ』ってあんな息巻いてた連中をどうやって黙らせたのさ」

「俺を誰だと思ってんだ。あいつらの思うようにさせるかよ」

自信満々に笑う水尾に、御門は納得できないという表情を向ける。

「…と言いたいところだが、これだけ短い期間で終息したのは、俺だけの力じゃねえ」

「どういうこと?」

水尾は懐から、一通の文を取り出すと、御門の前に放り投げた。

「お前を手助けした奴がいるからだ」

「俺に味方をするような酔狂な奴がいるわけないでしょ」

御門は警戒するように手紙を一瞥すると、吐き出すように言い捨てた。

「誰だと思う?」

「…謎解きは嫌いだよ」

なおも話をつづける水尾に、御門は、退屈だとでもいうように三だび盃を空けた。
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