吸血夢
□魔女のトリック
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逆巻スバルは今、ものすごく機嫌が悪い。
いつもより深い眉間の皺がそれを物語っている。
周りにいた生徒達はそんな彼を見て逃げるように道を開けていく。
(………チッ、ウゼェ………)
自分を見て怯える周りの目に更に苛立ちが増した。
だから嫌なのだ、学校なんて。
何処に行っても騒がしくて落ち着かない。
その上、「あんな奴」に付きまとわれては嫌気が差すというものだ。
名無しさんという名前の女子と同じ委員会に入れられてから毎日のように付きまとわれるハメになった。
「ウゼェ」
「これ以上付きまとったら殺す」
「消えろ」
「いい加減にしねぇとぶっ殺す」
と、思いつく限りの傷付けるようなことを言っても無駄だった。
いつも浮かべているニコニコ笑顔で華麗にスルーしてしまうのだ。
そりゃあもう気持ちがいいくらいにアッサリと。
これにはさすがのスバルも呆れた。
呆れてもう怒る気も失せた。
それからは何も言うことなく、彼女と鉢合わせする前に逃げることにしたのだが
「こんにちはスバル君」
「……………」
屋上で寝ていた彼の耳に彼女の声が響き、恐る恐る目を開けた。
「またこんなところで寝てるんだね。寒くないの?」
世の中の穢れを知らない無垢なアメジスト色の瞳にまっすぐに見つめられ、スバルは目をそらした。
「………別に寒くねぇよ」
「元々体温ねぇし」と付け足せば彼女……##NAME1 ##は満足したように頷いた。
「そっか。スバル君はヴァンパイアだもんね」
切なげにそう呟いてから名無しさんは空を見上げて小さく呟いた。
「私ね、ヴァンパイアに憧れてたの」
「………………」
突然の告白に思わず空を見上げる名無しさんを見た。
「カッコイイなって、思ってたんだ。あ、じつは今でも思ってるんだけどね」
無邪気に微笑んでそんなことを話す名無しさんの姿に、スバルは言葉を失った。
「………お前馬鹿じゃねぇの。ヴァンパイアは血を吸うんだぜ?」
「そこが好きなの。………でもヴァンパイアものの映画だと吸い殺しちゃってるし、顔も怖くされてることが多いから、いつも考えるんだよ」
「スバル君みたいな綺麗な顔をしてるヴァンパイア」
頬を赤く染め、うっとりとヴァンパイアの話をする名無しさん見て、スバルは内心ため息をついていた。
この女はヴァンパイアのことが何も分かっていない。
ヴァンパイアにとって人間は餌でしかないのに、何を考えて憧れるなんて言えるのか。
「…………お前、ヴァンパイアに憧れてるって言ったよな」
「え?うん!私、今でも好きだよ」
彼女がそう答えたのと同時、スバルは名無しさんの腕を強く引っ張った。
「きゃ………!」
短い悲鳴を上げて倒れ込んだ名無しさんを抱きとめ、きつく抱き締めた。
「スバル君………?」
「………お前の理想、叶ってるじゃねぇか」
「え?」と困惑の色を滲ませ、下からスバルの顔色を伺う名無しさんは何を言われたのか分からないらしく、小首を傾げていた。