小説.

□狡い、  02
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【 狡い、  02 】





「...見てたんですか。」

「偶然でさぁ。」

やっと泣き止んだ彼女の一言目はそれだった。
家の方向が同じだから、今日も一緒に帰ることになった。

「それにしてもまさか姐さんが、ねぇ。」

「私もおかしいと思うわよ。」

微笑みながら言うその表情は、本物か偽物かは分からない。

「何で好きになったですかぃ?」

「ん-...分からない。けど好きになっちゃったから。仕方ないかなぁって。」

...
大人だなぁ。
考え方。そういうところが俺は好きで。
嫌いになんかなれないよ。


「姐さんは、もう、恋とかは...」

「ん-..分からない。恋は一瞬で始まるから。」

...チャンスがあるってことか?
姐さんはきっと、俺のことを友達としか思っていない。
まずそこからかよ...。

「沖田くんは?好きな人とか、彼女とか。」

「彼女は居ないでさぁ。」

「え、そうなの?てっきり居るかと思ってたわ。沖田くんってファン多いし。告白も少なくないでしょ?」

「まぁ...多いけど、眼中にないでさぁ。」

目の前に居るし。
俺って何でこんな時に臆病なんだろ。あ-ムカつく。

「じゃあ居ないんだ。」

「好きな人なら居ますぜ。」

「へぇ...誰?」

「いきなり聞くんですかぃ?」

容赦無ぇなぁ。
まぁ俺も知っちゃったしね。

「いいじゃない。教えてよ-。」

少し拗ねたような声。可愛い。

「嫌でさ。」

「う-...じゃあ、どんな子?その子は。」

「そうだな...優しい。皆に優しいんでさ。強い女の子だけど、
それでも弱いところは弱くて。だけど人前では泣かないんでさ。
そんな感じですかねぇ。」

「へぇ...いい人だね。」

微笑んでそう言った。自分のことを言われてるなんて知らずに。
鈍いですよ、姐さん。気付いてくだせぇよ。

「名前は...教えられやせん。けど、」

優しく、強く、腕を引っ張ってあげた。
腕の中に閉じ込めた。さっきみたいに。
精一杯の力で優しく抱締めてあげた。

「..、」

呟いて離してあげた。2文字。
もうこれ以上は近づけない。俺が我慢できなくなる。

「それじゃあ姐さん、さよなら。」

ちゃんと笑えたのか不安だった。だけど笑えたと思う。

あぁ、もう明日から一緒に帰れないんだ。と思うと、鼻の奥がつ-ん、ときた。


 

俺は彼女の染まった頬には気付いてあげられずに。
最後の帰り道を歩いた。



「恋は一瞬で始まる、か。」





end..?




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