*及岩物語

□何でもないから気にしてよ
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「ごめんね。気持ちは嬉しいけど
俺、好きな人がいるから」


「…そうですか。やっぱり本当だったんですね。
こちらこそ急に呼び出してすみませんでした」


「ううん、本当にありがとうね。
これからも応援に来てね」


「はい」


放課後、部活をよく見に来てる女の子に呼び出された時から
既に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

それと同時に『好きな人がいて、今はその人以外考えていない』と
大々的に公言しているのに、
どうしてわざわざ失恋しにくるのだろうと不思議にも思った。



大切にしてきた想いを自ら壊すなんて理解できない。


知らなかったのかな?



いや、「やっぱり本当だったんだ」と言っていたから
知っていて、あえて呼び出したんだろう。



すごい勇気だなぁ…



小さくなっていく後ろ姿を見つめながらもう一度ごめんねと呟き、
そっと溜め息をついた。


口には出さないけど断る方もけっこう疲れる。


いかに傷つけずにはっきり断るか。

思わせぶりに言うのも後々面倒になるし、
きっぱり言い過ぎるのも後々面倒になる。


こんな感情を知っているから今までずっと想いを伝えられずにいる。


もし伝えたら拒絶されるだろう。
いや、その前に信じてもらえないかもしれない。



でも、もしかしたら…



そこまで考えて頭を振る。


その可能性はない。

万に一つも絶対にない。
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