*及岩物語

□今だけ気持ちが見えたらいいのに
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『それでは今日の天気をお伝えします』



まだ完全に頭が冴えていない朝。


真水で顔を洗うのは一年を通して変わらない。


リビングからは母親がいつも観ているニュース番組の天気予報が聞こえてきて、
予想気温と降水確率を伝えている。


天気予報が終わるまでにリビングへ行って
その後の最近の流行りなどを紹介するコーナーが終わるまでに朝食を食べるのが朝のリズム。



朝の準備に追われている母親におはようといただきますを同時に告げ、箸を取った。



テレビでは天気予報が終わっていて
『それでは次のコーナーです』
と、いつものアナウンサーが進行している。


『もうすぐホワイトデーですね。
人気商品や今年の傾向を調査してきました☆』



今日はホワイトデーの特集らしい。


あぁそういえば今年は手作りだったなぁ…

及川のくれたチョコを思い出す。



『いっ、岩、岩ちゃん、あの、これ、これね……』


どもりながら渡された箱の中は、形のそろってないチョコレートが並んでいて
固くて噛み砕いた物もあったし、水っぽい物もあった。


その日の夜は腹痛に襲われたけどあいつの事だからきっと一生懸命作ったのだろう。



『こちらではホワイトデー限定スイーツを取り扱っています。
並んでいる方にお話を聞いてみましょう』



『今年は初めて手作りの物をもらったので特別なお返しをしたいなと思って来ました』



…………………



思わず箸が止まった。


手作りには特別なお返しをしなければならないのか?
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