*及岩物語

□叶わない、敵うわけない
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「あ、ねぇねぇ及川先輩!」


「ウソ!どこ!?」


月曜日の朝という一番眠い時間なのに眠気も飛んで窓に駆け寄る。


グラウンドの端にある部室棟。
運とタイミングが良ければ朝練を終えて
グラウンドを横切りながら校舎に向かってくる及川先輩が見れる。


バレー部の人たちと楽しそうに何か話してる及川先輩はいつ見てもかっこいい。

いつも隣りにいる「岩ちゃん」って呼ばれてるあの人が本当に羨ましい…


別の教室からも及川先輩を見ていた人たちがいたらしく、
どこかの窓から「及川さーん」と数人で声を合わせて名前を呼んでいる。


それに反応して及川先輩が笑顔で手を振った。


「あ、いいなー。手振ってもらってる」


「でも、今の声は方角的に2年の教室だったね」



一緒に及川先輩を見ていた友達が言う通り、あの声は2年生。


いいなぁ2年生は。
私より1年多く及川先輩を見ていられたんだ。

それを言ったら3年の、特に同じクラスの人たちはもっといいなぁ。



同じクラスだったらもしかして付き合えていたかもしれない。


でも現実はたった1年。
たった1年しか同じ高校にいられない………



初めて及川先輩を見たのは入学式の次の日にあった部活紹介だった。


ステージでバレーについて話す及川先輩は本当にかっこよくて
「あんなにかっこいい先輩もいるし制服も可愛いしこの高校に入って良かった」と
すごく嬉しくてドキドキしたのが最初。

その日の放課後には「男子バレー部ですけど女子の皆さんもぜひ見学に来て下さい」という言葉に、
出来たばかりの友達数人と第3体育館に行った。


体育館入口には他のクラスの1年生も集まっていて、
及川先輩は「来てくれてありがとうね」と一人一人に声をかけてくれた。


もちろん私にも声をかけてくれたのだけど、
緊張しすぎてどんな返事をしたのか覚えていない。


特に部活を決める事なく帰宅部となったけど、
放課後はほぼ毎日及川先輩を見に体育館へ行った。


ギャルっぽい人たちもいれば1年生の私が言うのも失礼だけど地味な人たち、
「私は一番及川先輩と仲がいい」アピールをしてくる人もいるし
練習試合の時は他校の人たちもいる。


ライバルばかりで及川先輩との共通点もなく
その他大勢として見つめる日々。


それでもいつかと思いながら4月が終わり5月に入った。
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