*及岩物語

□勝負はここから
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「岩ちゃん俺さー、また振られちゃったー」


まただ。



「……………」


「何か言ってよ!」


「へー」



突然人の部屋に来て読んでいた雑誌を横取りしておきながら、
興味なくページを開いている時点で予想はしていた。


及川に初めて彼女が出来たのはいつだったっけ?

相手とは挨拶程度しか言葉を交わした事がないと聞いて、

「どんな性格かもわからないのに付き合うのか」

と率直な感想を言うと

「けっこう可愛いし良い子そうだし好きになるかもしれないじゃん」

悪びれなくいつもの口調で答えた。


ずっと一緒に過ごして来た奴に彼女が出来たのはけっこう衝撃だった。


及川は外面だけはいいからいずれ彼女が出来るだろうとは思っていたけど
それが実際に現実となった時は何とも複雑だった。


単純に羨ましかったのか、
そういう感覚で付き合うのかとムカついたのか、
今まで感じた事のない感情はどう例えたらいいのかわからなくて
なぜか無性にイライラしたー




のは最初だけ。


その後、1ヵ月もしないで「振られちゃったー」と彼女が出来た時と同じ口調で報告に来た。


それからは彼女が出来る度に報告に来て、
別れる度に報告に来る。


そして必ず
「岩ちゃんなぐさめてよ」
聞いてもいないのに別れた経緯を勝手に説明した後に
勝手な事を言ってくるのが一連の流れだ。


最初はそれなりに励ましていたけど、
毎回毎回付き合う理由も別れる理由も期間も同じで
真面目に相手をするのが面倒になってきた。


どうせ今回も同じ理由なのだろう。
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