*国金物語
□余裕がないから自覚がない
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いつだったか及川さんに聞いた事がある。
「及川さんはよくあんなに岩泉さんに『好き好き』言えますね」
本人の前でも本人がいない時でも岩泉さんの名前を口にして自分の気持ちを言葉にしている。
どんな形でも自分の気持ちをちゃんと言葉にしている感心が半分と
拒否されたらどうしようとか思わないのかなという素朴な疑問が半分。
「えー、だって我慢出来ないんだもん」
「好きすぎて想いが溢れそうとか言っちゃうんですか?」
「…国見ちゃんが言うと俺がおかしいみたいに聞こえるから不思議だね。
でもその通りだよ。どれだけ言っても足りないくらい」
「でもきっと岩泉さんには伝わってないですよ」
「まあねー。
だから言い続けるんだよ。もちろん伝わっても言い続けるけど。
今は洗脳中だからいいの」
「洗脳……」
「岩ちゃんみたいな思考が単純なタイプはさ、
毎日毎日言い続けていれば刷り込まれていくんだよ。
俺が言いたいだけ、ってのもあるんだけどね。
でも、いつか岩ちゃんに想いを伝える子が現れた時に、
岩ちゃんが無意識に俺の『好き』を思い出してたらこれほど嬉しい事はないじゃん」
意味ありげに目を細めて、
「国見ちゃんも試してみなよ」
見透かしたように笑った。