*国金物語

□だから明日も
1ページ/9ページ


油断していた。


完璧に油断していた。



部活前の放課後、廊下で話しているのは金田一と知らない子。


見た事ある気はするんだけど…わかんないな。


「ありがとう」とか「大丈夫」とか所々聞こえてくる会話が落ち着かない。
聞こえなかったらもっと落ち着かないけど。


「じゃーな」と金田一の声がしたと思ったら、


「国見ー、部活行こー!」


いつものテンションで金田一が教室に入ってきた。

こいつが元気なのはいつもの事だけど、
さっきの会話で浮かれてるようで何か腹立つ。


苛立ちを隠せないまま、


「さっき誰かと話してたな」


部室に向かいながらぶっきらぼうに切り出した。


「…あー、2組の子だよ」


「知り合いだったっけ?」


「いや、こないだ美術室の前を通ったら
あ、あの子美術部なんだけど、
顧問の先生と二人で彫刻の像を運んでて重そうだったから手伝った」


「…他の部員はいなかったの?」


「何か予定より早く届いたから誰も来てなかったみたいでさ」


「………ふーん」


こないだ、っていつだろ?


「そしたら、次の日にわざわざお礼言いに来て」


あ、


「別に大した事してないのにさっきもお礼言われてさ」


これは、


「何かの大会があって、それに使うんだって。
俺、絵とか全然描けねーからすげー尊敬する」


考えたくないけど絶対そうだ。


「けっこう可愛かったな」


「えっ!あっ!いや…うん」



やっぱり。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ