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□ノックアウト
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「はぁぁ」


「どうしたボス?」


「恭弥がさー」



山積みにされた書類を前に盛大な溜め息をつくものだから
てっきり記載内容に不備でもあるのかと声をかけたのが間違いだった。



「もう一週間経つのに全然言うこと聞いてくれねーんだよ」



ひとたびボスの口から「恭弥」という名前が出ると

「人の話聞かないで突進してくるんだぜ」だの
「あんなに細くて飯食ってんのかな」だの
「恭弥の黒髪ってすげーキレイだよなぁ、いつか触ってみてーなぁ」だの

次から次へととどまる事なく話し続ける。



それでいて本人は無自覚なのだからタチが悪い。



「相変わらずリングや守護者の話も聞かねーし」



『過去の自分とリボーンや、現在の弟弟子とリボーンのように
それなりに良い関係を築けるといいなー』と話していたが、
いざ蓋を開けてみると強い相手をいかにして咬み殺すかという
戦闘しか頭にない超がつくほどの問題児。



顔を見れば得物を構え、
口を開けば「今日こそ咬み殺す」、
傷の手当てをしたくても傷なんかないと拒絶する…


この一週間で進歩した事と言えば応接室を訪ねても嫌な顔をしなくなった事くらいか。


もっともそれだって戦いたいからという理由のみ。


このペースで距離を縮めていてはリング争奪戦に間に合わない。



「どうしたら話聞いてくれっかなー。
せめて2分でいいんだけど」


「飯でも誘ってみたらどうだ?」


「なっ、何言ってんだよ!ロマーリオ!
そんな、恭弥を誘うなんてムリに決まってるだろ!」



あぁやっぱり…とたじろぐボスを見て肩を竦める。



初めてあの少年を見た時のボスの顔。

唐突に思い出したのはみんなから『坊ちゃん』と可愛がられ、学校にもまだ入っていない頃。
街にある花屋の前を通る度に、自分より一回り以上年上の店員を頬を染めて見つめていた。


声をかけられてもいつもの人懐っこい笑顔を見せる事なく
部下の足にしがみついていた。



あれからガールフレンドができても愛人ができてもあんな顔を見る事はなかったのに
まさか国も歳も立場も違う、同じなのは性別だけというあの子の前でもう一度あの顔を見られるとは…


本気になればなるほど奥手になる事は長く仕えている部下なら全員わかっている。


だから鎌をかけてみた。
結果は予想通り。


そして、


「…誘ってみてもいいと思うか?
さ、さりげなく言えばさりげないかな?」



これも予想通り。

なぜか必ず部下に許可を問う。
しかも既にさりげなく言えていない。


「あれだけ体を動かせば腹も減るだろ。飯に誘うのも至って普通だ」


「そっか…そうだよな!
よし、明日誘ってみる!」
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