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□15分経ったらね
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「恭弥」


報告書の確認を一通り終えてペンを置いた瞬間、
甘ったるい声で名前を呼ばれる。

ごく僅かな視線でこちらの様子を窺っていたのだろう。
気付かなかった自分が腹立たしい。



「恭弥」

「何度も呼ばないで」


「何度も呼びたくなるんだよ」


そう言いながらソファから立ち上がり
近付いてくる。

そして、僕の椅子をゆっくり180度回転させて
さっきまで向かい合っていた机が真後ろになった。


「恭弥」


目の前にいるこの人が、僕の身体を挟んで机に両手をつくから身動きが出来ない。


「キスしていい?」


心の奥底まで見透かされてしまいそうな
真っ直ぐな蜂蜜色に捕らえられる。


まただ。
また、この人の思い通りになってしまう。


こちらにもこちらのスケジュールというものがあるのだ。

予定通り進まないのは理念に反する。



だから、


「後15分経ったらね」


「え?」


間の抜けた声。
同時に無意識に身体を離して壁の時計を見上げた。


その隙に椅子を回転させて机の前に戻し、書類の整理を始める。



現在16時55分。


17時には風紀委員の人間が今日の活動報告書を持って来る。

それに目を通して判を押してファイリングして……


全ての最終チェックや明日の予定確認も入れると後15分はかかるだろう。



あなたはきっとその間そわそわするんだろうね。

意味もなく歩き回ったり時計ばかり気にするかもね。



今から15分後、あなたはどうするのかな?
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