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□理想のあの腕に
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「やっぱいい腕してるわぁ…六車隊長」
「でた…あんたの筋肉フェチ。この前まで更木隊長の筋肉がいいとか一角の頭がつるっぱげがいいとか言ってたくせに」
「いや、一角の頭は言ってなくない?実はあの頭何気に気に入ってるの乱菊なんじゃないの?」
「やっだぁ!やめてよ!!確かにあの頭は叩くとイイ音するけど…」
「ほら!あれ見て!腕曲げた事で浮き上がるあの血管…たまらないわ!」
「ああ、そう…」


その日の業務が終わって上司であり幼馴染みでもある十番隊副隊長の松本乱菊とともに行きつけの居酒屋で飲んでいた。(ちなみに私は十番隊三席)すると飲み始めてそう時間がたってない内に去年九番隊と六番体、そして三番隊隊長に就任した六車拳西、平子真子、鳳橋楼十郎のお三方が同じ居酒屋にやってきた。あれ、彼らの場合出戻り?確か101年前まで隊長やってたって言っていた気がする。流石に隊長格が入店とのことで店側はお座敷を用意しようと言ったのだが彼らはそれを断り普通に長椅子が2つ向かい合っている所に座った。その場所は丁度私と乱菊から見える所だったので私は遠慮なく見させてもらっている。周りの隊士達はビビってそそくさとどこかに行ってしまった。

「というか筋肉ならウチの隊長も中々脱ぐといい筋肉してるわよー?それになかなか修平あたりもいい腕してると思うけど」
「だめなの!日番谷隊長は確かに隊長だし筋肉あるけどぺらっぺらっじゃない…あれじゃだめなのよ!!それに檜佐木副隊長は細すぎるわ…筋肉ならなんでもいいってわけじゃないのよ!?こう、美しいバランスっていうのがね…」
「ぺらっぺらっ…!(隊長、貴方土壌にも上がってもいないですよ…っ)」
乱菊がニヤニヤしながら日番谷隊長を推してきたけど私はそれをはね除けてどんな筋肉が素晴らしいかを語りだす。乱菊は何故か終始腹抱えて笑ってたけど
そう、私は自他共に認める極度の筋肉フェチなのだ。それも結構がっしりしたタイプの。だから昔からよく十一番隊の隊長とかについて熱く語っている。主に乱菊に。だって他に聞いてくれるような人もいないし…
今まで更木隊長が一番私の中でタイプだったのだが、突然それを上回る人が現れたのだ…。
そう、それが先ほども話題に上がった新九番隊隊長の六車隊長なのだ。彼は私が今まで見てきた筋肉の中でもダントツで良くて、ドストライクだった。一気に三人もの隊長、一人の副隊長が就任するということでお披露目も兼ねて三隊長一副隊長の就任式は上位席官も参加の大体的なものだったのだが、そこで初めて六車隊長を見て一目惚れしてしまった。
藍染惣介と共に三人もの隊長の反逆で混乱と不信感もあった時期だったのでイマイチな気分で参加していたのだがその心境は六車隊長が姿を現した途端に一気に一転した。袖無しの死覇装から惜しげも無く晒されたバランス良く鍛えられた腕。少し開いた胸元から除いている胸筋。そして整った顔立ちに常に寄せられた眉と光に当てられて輝く銀髪。一瞬で目を奪われた。
就任式が終わると私は興奮そのまま真っ先に乱菊を連れて居酒屋に行き一晩語り尽くしたものだ。その時聞いたんだけど六車隊長決戦の時現世の服でタンクトップだったらしい。なにそれ本当に見たいんだけど。

「はぁー…あの太い腕に抱きしめられて死にたい…!」
「そんなに言うならちょちょいと迫って抱いて下さい!って言えばいいじゃない…あんたスタイルも顔も良いんだし。男なんて胸ちょっと見せればコロッといけるわよ」
「いやいやいや、無理よ隊長にそんなこと出来るわけないじゃない!!」
「あんた前更木隊長とか一角とかには堂々といってたじゃないのよ…あの時の勢いはどうしたのよ」
「いや、だって十一番隊の人達ってこう、隊長から隊士まで皆友達としていけるというか、私が毎回騒ぐもんだからむしろ自慢するように触らせてくれる様になっただけだし…。更木隊長はこう、兄貴みたいな?」
「更木隊長を兄貴なんて呼べる女なんてこの世にあんたくらいよねぇ…、ていうか、なんで六車隊長だけは自分からいけないのかしら?」

乱菊の言葉に私は固まってしまった。彼女は面白いものを見つけたみたいにニヤニヤしている。
確かに、私は今まで気になった体系の人には勢い良く触らして下さいって言って触りにいっていた。 だけど

「そうじゃん、なんで私六車隊長には行けないんだろう…」

彼が隊長に就任してから何回も書類を届けに九番隊に行っているし、合同練習とかで一緒になることもある。私はこれでも上位席官であるし話す機会だってあったのに
呆然と呟いた私を相変わらず乱菊はニヤニヤしながら見ている。しかし乱菊はどんな表情してても羨ましいくらい綺麗だなぁ

「そんなの決まってるじゃない!!好きだからよ!!オ・ト・コとし・て」
「え、」


わざわざ男の部分を強調して言われた言葉に私は唖然としてしまった。私が、好き?六車隊長のことを?男として…?

「前から薄々怪しいとは思ってたのよねー。好みの筋肉の人見つけたら飛びついてたあんたが明らかに好みそうな六車隊長にだけは行かなかったし?随分あっつぅい目で彼を見てたし?」
「え、ええ…うそ…」
私は持っていたお酒を置いて両手で顔を覆った。顔中耳まで血が回っていくのがわかる。だってすんごく熱い。信じたくなかったけど私が六車隊長を好きなのだとしたら私の行動の全てに納得できるのだ。
「まぁあんたが惚れるのもわかるわぁ…だって六車隊長ってイケメンだし意外に気遣いできるし部下思いだし男らしいしね…。まぁかなり短気っぽいしいつも不機嫌そうな顔してるけど…」
乱菊は六車隊長の方を見ながら言う。
彼は今お酒を飲みながら平子隊長と鳳橋隊長と話している。平子隊長と鳳橋隊長は笑ってしゃべってるけど六車隊長の表情はそんなに変わらない。でも時折眉を下げて小さく笑うのだ。そんな表情が愛おしく思えて…、私は改めて六車隊長に惚れているのだと自覚させられた。

「…この前さ、九番隊の子との合同任務があったんだけどさ」
「うん」
「その任務が終わった時にさ、丁度六車隊長が来てたの」

そう、流魂街に突如現れた特殊虚の討伐だった。なんとか全員無事にそいつを倒して瀞霊廷に戻ってきた時に丁度六車と鉢合わせをした。一緒に任務に出ていた子は六車隊長に憧れているらしく、褒めてもらいたかったのだろう。嬉しそうに任務完了の報告をしようとした。しかし六車隊長は彼の姿を見た途端に不機嫌そうな顔して彼の報告を聞く前に冷たく『馬鹿野郎、荷物まとめてとっとと帰れ』と言った。一瞬耳を疑った。命がけの任務から帰還した部下の言葉を聞く前に冷たく当たるなんてどういうことだと。案の定彼はとてもショックを受けたようだった。しかし途端にかれは膝から崩れ落ちた。

『ったく、』

六車隊長はため息をつきながら地面に行く前に隊士の体を抱きとめた。よく見ると彼の顔は赤くて呼吸も荒く、うっすら汗をかいていた。そう、彼は発熱していたのだ。

『たいちょ…すみません』
『馬鹿、四番隊行くぞ』

ショックで一気に熱が回ったのかフラフラとしており歩けない様子の隊士を軽々と肩に担ぎ、六車隊長は私に一言断って四番隊に向かうべく歩いていった。彼は隊士の体調が悪いことを一瞬で見抜いてあんな事を言ったのだと私はその時やっと気がついた。それから注意深く見てみると六車隊長は言葉は足りないし一見ぶっきらぼうだがちゃんと隊士一人一人に気を配っていてとても面倒見がいいことに気がついた。

「へー、そんな事あったの…六車隊長かっこいいー」
私の話に乱菊は目を見開いて感心したように言った。思えばあの時かもしれない。私が彼を好きになったのも…
「その時なのね、あんたが惚れたのも」
「え!!!もう、乱菊はなんでもわかっちゃうよねぇ…」
「なに当たり前の事言ってんのよ…見ればわかるわよ。何年の付き合いだと思ってるの?」
「そうね…」
「ところでリン、あんた告白とかしないの?」
「え!?」
乱菊は空になったコップに新しくお酒を注ぎながら言う。

「無理無理無理!!!できないよ!!」
「なんでよー」
「だって、隊長だし…私三席だし…」

私は全力でそれを拒否した。こう見えて100年以上は生きているからそれなりに恋愛経験だってあるが、それは同級生であったり同僚であったりだった。しかし今回は隊長なのだ。やっぱり隊長となると私なんかがなんてマイナスなことを思ってしまう。隊で上から三番目である三席とはいえやはり隊士からすると隊長という位は雲の上のような存在に思えて。
それに隊が近い事もあり話す機会がある為他の隊の女性よりも近いという自覚がある。会えば言葉を交わし、仕事が一緒になった時には少しだが世間話をすることができるこの距離を告白で崩してしまうのが恐かった。

「確かに隊長って地位はあんたからしたら遠く感じると思うわ。でも隊長だからって理由で諦められるようなくらいなの?あんたがそうやってうじうじしてる間に六車隊長に彼女ができたらどうすんの?嫌じゃないの?」
「嫌だ…」
彼が知らない女の人と並んで歩く姿を想像する。心臓が掴まれたように痛くなった。
「でも…今の環境を壊すのがこわい…」
「その距離を武器にしなさいよ。三席なんて上位席官で女なんてあんた位なんだから。他の女なんて隊長と深く関わる事すらないのよ?こんだけ隊士がいる中でただの下っ端が他の隊の隊長に名前を覚えてもらうことなんてまずないの。それに比べたらアンタは全然優位じゃない」
乱菊はお酒を一口飲んで息を吐く。先ほどのからかうような表情は消えており、どこか陰りを帯びたものになった。

「それに…言って後悔するよりも言わずに後悔した方が何倍も辛いのよ。」
「!」
その言葉にはっとなった。そうだ、彼女はもうその思いを伝える事ができない。私たちの幼馴染みであり乱菊の思い人だった彼は彼女の元から消えてしまったのだ。最悪の形で
裏切っていたと思っていた彼、市丸ギンはただ乱菊の奪われた半分の魂魄を取り戻す事だけ思って元凶であり憎むべき相手である藍染の下で百年以上も動き、そして魂魄を取り戻して死んでしまった。乱菊がそれを知ったのは彼が死ぬ直前で…お互い思い合っていたにも関わらずその思いが繋がる事なく終わってしまったのだ
乱菊は未だにギンへの思いを捨てられずにいる。長かった髪を切って割り切ったように振る舞っているが…彼女の思いはずっとずっとギンに向けられて、揺れている

「死神なんていつ死ぬか分からない職業だしね…リン、アンタには私みたいな後悔してほしくないの」
乱菊の悲痛な表情に耐えきれず私は俯いた。


「そうだな、俺だったらそんな後悔したくねぇ」



すると突然頭上から低くて鋭い、聞き覚えのある声が振ってきた。慌てて顔を上げるとそこには脳裏に描いた通り

「む、六車隊長…!?」
先ほどまでの話題の中心であった彼が不機嫌顔で腕を組んで私を見下ろしていた。
何故!?彼は向こうの席で平子隊長と鳳橋隊長と飲んでいたはず…。彼が座っていたはずの席に目を向けると平子隊長がゆるい笑顔でひらひらと手を振っており鳳橋隊長が微笑んでいる。

「女子同士の話中にスマンなぁ、実はこの店入った時からあんたらの事気付いとったし…俺ら隊長やからそれなりに耳がええさかいな」
実は聞こえてしもたんや、と平子隊長が言った。私は一気に血の気を失っていく。冷や汗が吹き出して止まらない。聞こえていたとはつまり、私たちの会話が彼らに丸聞こえだったということだ。
つまり私の思いが六車隊長にバレてしまったということで…

「悪いが松本、こいつ連れてくぞ」
「ええ!どうぞどうぞー!
「え、ちょっ…」
「ほな乱菊ちゃん、俺らと一緒に飲まへん?男二人寂しく飲むより乱菊ちゃんみたいな美人さんと飲んだ方が酒も美味くなるわ」
「あら、平子隊長お上手なんですね。私も一人で飲むのも寂しいし遠慮なくご一緒させていただきますー!」

最悪の状況に目を白黒させて固まる私の腕を掴んで立ち上がらせると六車隊長は乱菊に断りを入れて出口まで引っ張っていく。戸惑う私は気にせずあっさりと私を引き渡した乱菊は平子隊長達に誘われてそちらへ行ってしまった。
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