物語

□星夜
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「大規模作戦、状況終了! ダーカーの検知値、ゼロです。 工学班は各拠点の損害状況を確認、補修、補填、メンテナンス、復旧作業などへ向かって下さい。大規模作戦はー」




各拠点から聞こえてくるアナウンスに、残党を始末しおえたわたしは若干の違和感を覚えた。

「じゃああたしは復旧作業しますねー」
「あれ、刹那さん、工学班だったんすか?」
「そうよー? 直し屋からの機械学科上がり。今日、人手足りてないからって、今通達が来たのよね」


「せっつん、復旧作業ちょっと待って」
「え、どしたの? くっしー」

砂風が荒っぽくなり、各メンバーの砂避けローブが強くひらめく。
一瞬のその静寂を破ったのは、聞き覚えのない声だった。


「《まだ》来るねぇ! いやぁ、汚い手だ!」



声の主は、拠点のネズミ返しに腰を落ち着けていた。
短い蒼髪を揺らし、無所属を表す飾り気のないローブ、頭には魔女を思わせるポラリスハット。
そして血色の瞳、目元に濃く施された華の紋様。

しかしその人物は、剣を背負っていた。


「貴方、法撃使い(フォース)じゃないの?」
「んぁ? …おやおやぁ、おやおやおやおやおやぁ。見た目で判断するのはいくないなぁ?」


よっ、と地上に飛び降り、親しげな口ぶりでこちらに向かってきた青年。
一瞬翻ったローブの隙間からスーツらしき服が見え、確かに見た目で判断してはいけない、と思わせた。

「一応斬撃使い(ハンター)をメインにした法具使い(テクター)を目指してるんだがね」
「また、マイナーな……」

物好きなクラスを目指している青年に若干のあきれを覚える。

「まだ、ってどういうことだ?」


そこへ、よく知る声が砂塵を潜り、現れた。
ローブをやんわりと羽織り、ゆるゆると裾をゆらし、キナガシへ合わせてある。
性別は男。背は高い。
髪型は茶色いドレッド、瞳はハスキーブルー。


「防衛報告書出してきて戻ってみりゃ、なんか物騒な話してるなあ」


「んっとぉ? どちら様ですかね?」

青年は首を傾げ、一瞬初対面とは思えない表情を見せ、瞳を細め男を見る。
男は一瞬眉をひそめ、小さくため息をついた。何か言いかけ、首を横に振るのが見えた。

「自己紹介はいいだろ、お互いアークスカードっつー便利なもんがあるんだから」

「ん、犬のおじさんにしては、珍しく突き放した言い方ね?」


移動シップに戻っていたはずのチームメンバーを引き連れて、先頭で現れたのは露出の高い衣装をまとった踊り子風の女性。
後ろの面々もどうした?どうしたんですか?と声を上げている。

「りおちー、どしたの」
「ああ、くしまん。いや、なっかなかシップに帰還しないから心配で戻ってきちゃったー」

で、あの空気はなに、と物好き男とドレッドの男、victorを見ながらリオはこそこそと聞いてきた。
私からすれば、さっぱりな空気なのでそのままを伝える。
そうすると彼女はなにやら考え込みはじめる。




「しかし、なんか嫌な予感がする」
「なに、戻ってこなかったのはそれかー」
「なんか、終わったーって感じがしないんだよね」


ビー、ビー、ビー


あたり一面にけたたましく鳴り響く警報音。
ここではあまり聞くことは少ないものだ。
その音は、緊急を告げるもの。
つまり、終わっていないということだ。



『大変です! 一部の採掘基地に侵食核が進入! セキュリティを一部のっとられちゃってます! こちらも手を尽くしてるんですが時間がかかりそうなんです!』


あちらこちらから悲鳴なども聞こえ始めている。
銃座の点検をしていたほかのアークスたちだ。

アナウンスは続きがあった

『大規模なダーカー数が迫っています! こちらの独断で、試用段階ですが最新騎兵のA.I.S使用を許可しました! 現場のアークスさんたちが少ないのでそれでなんとか蹴散らしちゃってください!』


「AISって、最近導入されることが発表されたあの?!」

なぜか目を輝かせたのはワンコことvictorだ。
そういえばそういうのが好きだとか聞いていたような。

しかし、オペレーターの一存で決めていいことではないが、なりふり構っている場合ではないことがそこからにじみ出ているのも事実だ。

わたしはリオに振り返り、口を開いた。

「今何人いる?」
「34人だね。 まだシップ待機させてる子達も合わせれば57」
「割とみんな根性あるね?!」

若干自分のチームの所属メンバーにドン引きしたところをリオがジト目で見た後、チームメッセンジャのパネルをこちらに見せてきた。


・若輩メンバーですけどいけますよ!
・床ぺろ勢だって負けちゃいないぞー
・殲滅担当は任せてください!
・どこ守ればいいっすかー?
・回復と床ペロは任せろー!
・おい床ペロがんばれよ
・床ペロなりにがんばってんだよこのやろー!
・トマトさん! 指示お願いします!
・あたしらもいつでもいけるよー!


すこし頭を抱えたくなる発言が目に付いたがそれも含めて、目頭が熱くなるような仲間たちからの言葉が、じわじわと湧き上がってくる。
どんどん増えていくチームマスターの言葉を待つメンバーに、唇が震えた。
ドン引きなんて、してる場合じゃない、それも実感した。


地響きが、駆動している採掘機器とは違うそれが、近づいている。
通常の防衛戦とは明らかに違う、茨の中にいるような苦しい空気。


「いいチームになったね」


声に振り返れば先ほどの物好き青年が立っていて、戻ってきたメンバーたちが集まってきたのが見えた。
ほかの拠点にも同じような通告がいったのだろう、各拠点に配備可能になるメンバー数がいる。
この青年は何を知っているのか、どこか違和感を感じはするが思い出せない。
とてつもなく苦しい感覚はある。
だが、聞けない。


「くっしー、手短に状況と想定される事態を話し合うから早くこっちへ!」

一瞬の感覚のブレに戸惑い、そして呼ばれたほうを見ると我がチームきっての精鋭メンバーが集結していた。

「貴方は?」
「オレ? オレは勝手に乗り込んできたからなあ。そろそろ戻らないとメリッタが五月蝿いのなんの」

―……!! ……!!―

「へいへいわかってやすよー」

端末の怒号に軽口で返事を返した青年はきびすを返して歩き出す。
そして採掘基地機関の入り口へ入っていった。






Last Stege【絶望の淵 追憶の淵】前編









「なんなんだよこれ!」


戦況は驚くほど絶望的な状況だった。
残す拠点は二つ。
全体防衛率が45%と現状最悪の事態になっている。
精鋭部隊が送り込まれたわたしたちのいる最前線が、一番損壊がひどい。


すでに二人重傷者が出ている。
最前線オペレーター役の野良アークスとその連れだ。
それでも後方に回り、敵の動きと指示の的確さには舌を巻く。


そんな彼女たちが悲痛の叫びを上げた。

『こんな、敵の数も今までとは規格外ですよっ、なんなんですかこれっ…っぅああっ』

「おもちさん?!」

『つれの蘇生はこっちでやります。皆さんはダーカーの殲滅と拠点防衛を!』

全体通信とは別にこちらへ個別の通信が飛んできたあたり、連れの男キャストは肝が据わっているとみた。
戦況はあちらがつかんでくれる、こちらはそれを動いてなんとかする。
今までの防衛戦でもかなり心強いメンバーに恵まれたようだ。


「ワンコ! 戦況把握を最低限に、あとはおもちさんたちに任せよう。わたしたちは本格的に前へ!」
「おっしゃ、そろそろ結晶の貯まりもいい具合だぞ。ここからはきつくなりそうだ、どうするくっしー」
「例の新戦力かっ!」


どうする、と若干数に確認をとる。
あまりの大人数がデカブツに乗ると、いつ終わるかもわからないこの襲撃をしのげるはずもない。
言うより慣れろ、とは誰が言った言葉か。


「刹那! なっつん! ワンコ! 小手調べにぶっ放して来て!」
「あいよー!」
「はいはーいっと!」
「こ の 時 を 待 っ て い た !」


うわぁ、超ノリノリなひとがいた。といったら確実に士気が下がりそうなので口にはしなかった。
うん、目の前の敵に必死だからね!
それにしても、壊しても殺しても倒しても減る兆しをなかなか見せない状況を、新戦力がどう覆し…。




ヴィイイイイイイイイイイイイイイイイ



その起動音と同時に響いた駆動音に、アークスが、ダーカーが、振り返った。
そこには、拠点と同じくらいには巨大な戦闘機がゆっくりと立ち上がっていた。

「すっげええええええ!」

叫んだのは透だ。
いつも長い髪は防衛のときは邪魔にならないようにまとめてある。
しかし戦いのなかでそれもくずれてばさばさだ。その髪が駆動して高速でなぎ倒していく機体の爆風で揺れている。


そう、その機体、AISはわたしたちですら予想していなかったレベルの戦闘力、速度で目の前で苦戦していた大量の敵を溶かして行ったのだ。

背には大剣、両腕で支えるように抱えられている小銃は連続射撃を行う。
持ち替えた大剣で一線薙げば、拠点に群がっていたゴルドーラはあらかた殲滅。


「これは、いけるかもしれない」


【それは、どうかしら?】


地響きとともに、背後に何かが降り立つ気配。
そして聞こえた声は、以前採掘基地で遭遇した【若人】の、もの。
振り返れば、そこにはビブラスの希少種と【若人】の姿があった。


「……!」
【なかなか面白い玩具をアークスは用意してたのねぇ? やるじゃない】


「あんたの相手は、オレで十分だろ」



頭上から声が降ってきた。
それは先ほど離脱したはずの物好き青年だった。


音もなくダーカーと私の間に降り立てば、【若人】にロッドを向ける。

「ユクリータ、いつまで遊んでるつもりだい?」
【違う…わたしは、そんな名前ではないっ!】

そう咆哮するのが先かあとか、ビブラスが雄たけびをあげ、こちらへと突進をはじめた。

「レイくん、足を狙って!」
「はぁい!」


青年とは違う声が、後ろからイルグランツを放ち、指定された部位をざりざりと削っていく。

「ナイス!」
「いよっし!」


テクニックを放ったほうをみれば、そこには若草色のきれいな長い髪をポニーテールにした少女がガッツポーズをしている。


「ぼおっとしてないでさっさと防衛しな」


キィイイイイイイイイイイイイイイイイイン


青年の構えたドラゴンスレイヤーから異質な音が鳴り響き、【若人】があからさまに嫌な表情を見せた。
ダーカーを一時的にひるませる音質、【中立の声】。
なぜこの青年がそれを使っているのか。
そしてどうしてわたしはそんな異質の存在を認識しているのか。


「行け!」


「貴方が、いや、あんたが誰か、わたしはわからない。けど、これが終わったらいろいろ聞かせて」

「じゃあ、しのいでくれよ、アークス」


ニヤリと笑った青年は、大剣からワイヤードランス、ビブラスランスに持ち替えた。
法撃と打撃両方に強い武器だったはずだ。


「へいへい。開発途中の状態の武器で、死なないでよね。アークスさん」


ため息を落としながらするりと出した言葉に、青年は驚き、そしてまた笑った。




「状況の報告!」

「あいさ! やっぱ新戦力は火力が違いますねぇ!」
「もう大体捌いちゃったよ!」


それぞれからの報告を聞き、AISの起動限界時間があることも確認。
そして一番やっかいなのが、深淵の壁と侵食されし砲台だ。

だがそれを凌げる戦力も、こちらにはある。
あとは使うタイミングだ。
こちらの戦力はそこそこあるほうだ。
そしてAISにより底上げはされるはず。
しかし、先ほどの【若人】の余裕はやけにひっかかる。



「くっしー、何かおかしいな」
「ワンコも気づいてたか。なんか、まだ何か来そうだねぇ」



【若人】とは違う緊張感が迫っているのを、わたしは感じていた。
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