□君の気持ちが温かい
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今日は俺の誕生日。

と、久しく自分の生まれた日を覚えていた。

だからどうと言うわけでもねェし、年をとることも別に嬉しくは思わない。

ただ“彼女”が自分のことのように祝ってくれることが正直嬉しい。


期待に胸が膨らんでいる俺はご機嫌だった、さっきまでは。



ツバキは「今日は用事があるから」と言って、それが済んだら家に来る。

飯は彼女が作ってくれるらしい。

詫びと言っちゃあなんだが、俺は買い出しだけでもしようと外へ出た。

少し歩いたところで、彼女らしき後ろ姿があった。

はやめに用事が済んだのか?と嬉しく思いながら声をかけようとしたが。


隣に、男がいる…?


二人で仲がよさそうに話をしている様子。


何を話してるのかは聞こえなかった。

自分の心臓の音で何も聞こえなかったから。


あのツバキに限ってそんなことありえねェ。

浮気なんて、出来るわけねェ。


そう思いたかった。

しかし目の前の状況は…。


俺はツバキのもとへ駆け出した。


「何してんだよ…!!」

「ゾロ…?!」


びっくりする彼女の腕を引っ張って、男を睨みつける。

「どうしたの…?」

「ど、どうしたって…、こいつ誰だよ!?」


好きな人を奪われるかも知れないと言う焦りを露にしたまま、“こいつ”を指差した。

苦しい、息苦しい。

答えが「好きな人」とか「彼氏」とか、そんな返事だったらどうする…。

頭ん中が混乱している。


しかしツバキはパニックになっている俺を見て可笑しそうに笑って見せた。


「お兄ちゃんだよ」


「は?」


思わず拍子抜けした声が出る。

隣の男も同じように笑っている。


「“お兄ちゃん”…って…」


顔から火が出そうなくらいだ。

隣にいたのは“好きな人”でも“新しい恋人”でもない、ただの兄妹。


ツバキは兄貴を見送る。


そのあと、二人で俺の家に帰った。



「………」

勘違いだったんだから許してやればいいのに、俺は不機嫌だった。

ツバキはそんな俺の顔を見て困った表情をしてしまっている。


「………」

イライラした態度でずっと黙っていた。

すると彼女はさっき買ったんであろう袋から青のチェック柄のマフラーを取り出して、俺の首にそれを巻く。

「何だよ…」

「プレゼント。…やっぱり似合う」

にっこり微笑んで、ぎゅっと抱きしめてきた。

その姿に心臓が鳴ったのが分かる。


俺のプレゼントを買うために兄貴に協力してもらったらしい。



「ゾロ、心配させてごめんね…」

「…おう。冷や冷やさせんな」

「う…」


再度困った表情をするツバキの頬に手を添えて、ゆっくり唇を落とした。


「次やったら覚悟しとけよ」

「ないよ。ゾロだけだよ…」


そう言って胸に頬擦りしてくるツバキ。

固まって震える程可愛くて仕方なくて、ぎゅっと強く抱き返した。



「お誕生日おめでとう。大好きだよ」


最後に胸の中で囁かれた言葉に、誕生日も悪くないと思う俺だった。





End

 
 

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