□君の隣
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最近気になってることが一つある。
この前、一週間くらい前かな。
ひょんなことから麦わらの一味に入った私。

船での旅や男女の共同生活。危険な戦いは勿論のこと。
私には何もかも初めてで、向いていないかもと思うことも少なくなかった。

でもクルーのみんなはどんなに迷惑かけても優しくしてくれるから、こんな私でも出来る限りサポートしたいと思うし、頑張りたいと強く思うようになった。

ただ優しいのは一人を除いてで…。
ううん…きっと優しくない訳じゃないだろう。


名前はロロノア・ゾロ。
緑色の綺麗な髪をした三刀流の剣士さん。
もともと私は男の人は苦手だ。
けれど彼は、私のことが嫌いなんじゃないかって思うくらい、普段怖い顔を見せるのだ。


お昼ご飯の時間に、つい昨日島へ降りた時の話をしていた。
町の男の人に連れていかれそうになっていたどんくさい私を、助けてくれたのはサンジ君だった。
もし誰も助けてもらえなかったら、どうなっていたかは分からない。
考えるとゾッとする。

みんなは私を元気づけようとしてくれているのだろう。
「ツバキは可愛いから、きっとそうゆうことが起こるのね。次は気をつければ大丈夫よ」
ロビンが優しい笑顔に、私も少し口角を上げる。

でも私が本当に可愛い子なら、ゾロだって優しくしてくれるはず…。

「どうせそうやって男の前でもヘラヘラしてたんだろ」
今まで黙っていたゾロが急に口を開いたかと思うと、そんな言葉だった。
ゾロの冷たい言葉が胸に突き刺さる。
「少しは警戒心とかねェのかよ。そんなんだから危ない目に遇うんだろうが」
ホントは分かってた。
ニコニコしていれば誰しも笑顔になってくれるわけじゃないって。
みんなが優しくしてくれるから、私はそれに甘えてるだけなんだって。

きっと私は可愛くない。
ゾロは私が嫌いで、私が泣けば泣くほど機嫌は悪くなる。
「ごめんなさい…」
それでもいつものように視界が歪んでいく。
泣いてばかりの私は、ゾロを困らせてばかりで、迷惑な女なんだ。

「くだらねェ」
「おいゾロ、どこに行くんだ?」
ルフィが声をかけると、少し間を置いて「…寝る」と素っ気なく応えて出て行くゾロ。
その瞳はまるで別人のように冷たかった。

「あんな奴のことなんて気にしなくていいわよツバキ」
ナミはそう言って、持っていたフォークでサラダを口に運ぶ。
私は鼻を煤ってフォークを手に取った。


お昼ご飯は美味しかったが、いつも通り元気は湧かなかった。
なんとなく甲板へ向かっていると、目の前にはゾロがいた。
私に気づくと、ゾロは眉を寄せる。

その表情を見ると上手く笑えないし、身体が強ばってしまう。

私はゾロに向けていた目線をどこかその辺に移して、通りすぎようと一歩を踏み出した。

「!」
そんな私の腕を掴む大きな手。
そして低い声が耳に響いた。

「おい、お前いい加減にしろよ」
捕まれてる腕が痛くて力が入る。
きっと怒ってるんだ。
私が直ぐ泣いて、はっきりしないのに、いつも笑って誤魔化して。

ちゃんと謝らなきゃ…。

「ご、ごめんなさい…!今度はちゃんと気をつけるから……!」
「は?俺が言いてェのはその態度が…!」
泣くつもりなんて毛頭ないのに、目頭が熱くなって視界が歪んで行く。
泣いたってゾロを困らせるだけなのに。
これ以上の言葉が出てこない。

何も言わずに黙ってると、ため息をついたゾロが言った。

「…悪かった。さっきは言いすぎた」

顔をあげると、ゾロは何だか苦虫を噛むように困った表情をしていた。
ゾロが謝ってくれたことに少し驚いている。
いつもは怖くて目も合わせられないのに、ポカンとゾロを見つめていた。
何だか嬉しくて頬が緩みそう。

そして大きな手が、ポンと私の頭の上に置かれる。
「…?」
「俺が怖いんだろ?俺も気を付ける。だから…泣くな」
困った顔をしてそっぽを向くゾロ。
その声が優しく感じて、私は小さく頷いた。

そして何も言わずに、彼は踵を返して行った。
ゾロの背中を見つめながら、触れられた髪を掴む。
自然と涙は止まっていたが、代わりに心臓がドキドキと脈を打つ。

“俺も気を付ける。だから…泣くな”

「…えへへ」
その言葉が頭の中で繰り返して、ゾロの声が耳の奥でこだまして。
それが嬉しくて頬が緩んだ。

 
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