表
□狼の罠
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静かな夜更け。
耳を澄ませば聴こえて来る波の音が、水面を滑り泳ぐサニー号を包み込んだ。
皆はもう寝付いた頃かな。
船上にはもう明かりはなく、月光で伸びた私の影が甲板に佇む。
ここ
今日はどうしてか寝付けなく、甲板で独り、ボーッと海を見つめていた。
寝付けないのは、きっと頭の中に、彼が浮かんで来るから。
非常に凛々しく、男らしく。
その姿はまるで『狼』の様で。
艶やかな緑髪に金色のピアス、3本の刀。それと、左目の傷跡が。
私の好きな、彼の特徴。
でも、彼は二十代で大人の男。
5つ開いた年の差は、これからも縮まることはなく。
すがた
私を子供扱いする彼の 行動 は、無性にもどかしくて。
女の子≠ニしてじゃないく、『女』として捉えて欲しい──って。
頭の中は、それだけなの。
そうしている間に、ハッと後ろに人の気配がした。
「…お前、まだ起きてんのか?」
低音で、甘く吠えるこの声は。
直ぐに分かる。
「ゾロさん…!?」
私の好きな声。
・・
私の好きな、一匹の彼がいた。
「な、何でいるの…?」
「別に、……何となく眠れねェだけだ」
「……そう…ですか」
心臓がドキリと脈を打って、緊張が解けない。
平常心を保とうとはしていたものの、全て顔にも態度にも現れてしまうのは。
キモチ
実は一言、自分の本音を伝えているから。
『もっと一緒にいたい』こと。
知らせ
傍にいたいこと、隣にいたいことを告白したからである。
でも彼は表情も、態度も変わらない。
あなた
普段のゾロさんがそこにいる。
彼も、私の隣に立ち。
今度は二人、海を眺めた。
沈黙時間に息が詰まりそうでならない。
「あ…お月様、綺麗ですね…!!」
「……ああ」
こっちを見て、少し口角を上げた彼に、私は何となく安堵した。
やっぱりいつものゾロさんだ。
・・・・
きっと、あのことは忘れてるのだと思えば平気だった。
「私、眠れない時はよくここに来るんです。月を見ると、なんか…安心するから…」
「ヘェ…」
「ゾロさんは違うの?」
「今日はたまたまだ」
私は意地悪そうな笑みを浮かべて見せて言った。
「ホントに?なんか悩みごとがあるんじゃないですか?」
「あ?」
すると。
やり返すように、あなたもニヤリと笑うのね。
「ああ、そうだな。まさか、ツバキがあんなこと′セうなんてな」
かお
上からものを言うようなその表情で。