表
□兎遊び
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静かな夜更け。
耳を澄ますと聞こえてくる波の音が、水面を滑るように泳ぐサニー号を包み込んだ。
他のやつらはもう寝付いた頃だな。
いつも通り酒を仰いでいた俺は、ふと甲板へ降りた。
船上には灯りはなく、月光で伸びた影がそこに佇んでいる。
誰がいるのかなんて、匂いで分かっちまった。
ナミやロビンの甘ったるい香水の匂いじゃねェ。
石鹸だけのシンプルな匂い。
普段はおとなしく見えてよく笑う、特に女のらしさもあるわけじゃねェ。
その姿はまるで兎の様。
兎−−−ツバキは16才。
俺とは5つ開いた年の差がある。
けして縮まらない差が。
けど、そんなガキみてェなやつをからかう-遊ぶ-のは嫌いじゃない。
頭の中はそれくらいだ。
「お前、まだ起きてんのか?」
「ゾロさん…!?」
ガキ丸出しの高い声で振り返る、俺が楽しむ一匹の兎。
「な、何でいるの…?」
「別に…何となく眠れねェだけだ」
「そう…ですか」
そんな柄にもねェこと言うか?俺が。
何でも真に受けて、勝手に顔染めんなよ。
顔にも態度にも表れる程緊張がバレバレなのが面白い。
実は一言、ツバキの本音を聞いている。
「もっと一緒にいたい」と。
それがどうゆう意味なのかくらい、顔見りゃ分かんだよ。
表情も態度もよく変わる。
普段は見せないツバキがそこにいる。
俺はツバキの隣に立ち、海を眺めた。
シンとする沈黙の時間の中で、どうやって遊ぼう-からかう-か考えていた。
先に沈黙を破ったのはツバキだった。
「あ…お月様、綺麗ですね…!!」
何も知らねェでいられんのは今のうちだ。
「…ああ」
ツバキを見て、俺は口角が上がった。
「私、眠れない時はよくここに来るんです。月を見るとなんか…安心するから」
「へぇ…」
「ゾロさんは違うの?」
「今日はたまたまだ」
そう、たまたま。
お前をここで見つけなきゃ、見飽きるくらい見てる月なんか眺めたりしねェ。