□いけない恋心-2-
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あれから半月が経った。

彼氏とはもう別れた。

連絡が来るのは今や会社の先輩や友達ばかり。


午後8時頃。

急に携帯の着信がなる。

普段はならない着信音だから、直ぐに分かる。

送信者名はきっと。


ゾロさん。


画面上に映る名前に胸が高鳴った。

『今、ツバキの家の近く通ってる。』

仕事でこっちに来てるらしい。


「“そうなんですか!”」…送信。

返信を待つ。


ピロリン♪とまた着信音が鳴る。

『少しだけ会うか?』

その内容を見た瞬間、更に鼓動が速くなった。


今ならゾロさんに会える…。

正直、会いたい。


「“うん…。”」

スマホをタップする指は、そう打った後、送信ボタンを押していた。


…ピロリン♪

『じゃあ出て来いよ。』


会えることが嬉しくて、早く会いたくて。

メールでの内容を見て、家を飛び出した。



マンションの入口を出る。

向かい側の歩道に一台の白い車があった。

中にいるゾロさんと目が合うと、手招きをされる。

通過する車に気をつけて、ゾロさんの車にかけより、ドアを開けた。

「はやく乗れよ」と言われ慌てて車に乗る。


「よぉ。久しぶりだな」

「…はい」

つい頬が緩む。

あの“キスの日”以来だ…。なんて。

(そんなこと思い出したってどうするの…!)

急にドキドキして、顔が火照る…。

ゾロさんはいつもと変わらないみたいだけど…。


「そういやァ、彼氏とはどうなった?会えたのか?」

突然の質問に頭はゆっくり冷静になる。

「あ…、彼とは別れましたよ」

上手くいってないのにズルズル続けてても、虚しいだけだから。

たくさん悩むのも、疲れちゃうよ。

それなのに…。

「逆に謝られちゃって、…何かモヤモヤします…」

正直、よく分からない。変な感覚だ。

「まあ…そりゃそうだろ、最初は。そのうち慣れる」

ゾロさんの言葉に少し安心した。

元カレに未練はない、…と思う。ないはず。

別れたことは悲しくないのに、胸の靄が晴れない。


この靄が未練から来るものなら、私はまだ、元カレが好き…?

それなら私がゾロさんといたいと思うのは、寂しさを埋めるためなの…?


確信が持てないからこそ怖い。

分からないから、不安だ。


でも今はただ、ゾロさんの側にいたい。

それだけしか考えたくない。


黙っていると、ゾロさんが口を開いた。


「…キスしてもいいか?」


運転席からのその声に心臓が跳ねる。

私は返事を返せない。

恥ずかしくて、座ったまま足下を見る。

彼がからだをこちらに向ける気配を感じるけど、動けない。


「キスしてェ…、しろよ」

もう顎を捕まれた。

拒むことは出来ない。だって嬉しいもの。

次第に近く距離に私は目を閉じた。


もっと知りたかった。もっと深くまで行きたかった。

だからその唇の感触を、静かな車内で味わう。


唇を吸われる。響くリップ音に身体が緊張した。

「…舌出せよ」

唇を少し離した間に言われた台詞。

彼の囁きに耳がジンジンする。

私はぎこちないながらに舌を絡ませた。

「…んっ……」

漏れる吐息と小さな声。

上手く呼吸が出来なくて頭がクラクラする。

何も考えることが出来なかった。

ただキスをするだけで精一杯だった。


暫くしてキスが終わる。

ファーストキスなんかじゃないのに、恥ずかしくて目が合わせられない。

そんな私の頭をゾロさんは撫でてくれる。

「…その反応は狡いだろ…」

何だか困った表情をしていた。

…ゾロさんの方が狡い…。


「あ、もう仕事行かねェとやべェ」

さよならの時間が来たようだ。

もう少し一緒にいられたら…。


「ん。もう一回」と、ゾロさんは短いキスをして、私の顔を見た後。

「…休みてェな…」

と呟いた。

それが可愛くて、可笑しくて、思わず笑ってしまう。


「じゃあ、また連絡する」

「…はい」

私は車を降りてドアを閉めた。

ゾロさんを乗せた車は暗闇に消えた。


“また連絡する”

それだけで嬉しくて、次会える日が楽しみでならなかった。


好きだって思えるのなら、それだけでいいのかも知れない。

だからもう深く考えない。

…私はこの人が好きだ。




Fin.

 


 

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