□君の隣
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それから何日か経った後の夜。
私は毛布を抱えて展望室に向かっていた。
今夜はすごく冷えるから、部屋の中でも寒いんじゃないかな。
ゾロが寒さは鍛えられないって言ってたし。
(これ持っていったらゾロ…喜んでくれるかな…?)
「……」

また、ゾロのことばかり。
ゾロがどうしたら喜ぶかとか、ゾロって笑うのかなぁ?って。
ゾロが喜んでくれることが私も嬉しくて、ついつい考えてしまう。

縄ばしごを登って、展望室の中にいる人影に声をかけた。

「ゾロ…?」
すると急に声をかけた所為か、ビックリしたみたいに目を見開いていた。
「お、おう。…どうした?」
「毛布、持ってきたの。その…冷えると思って…」
何だか照れ臭くてうまく言葉が出ない。
「そうか、悪ィな」
ゾロは普段通りの返事をして手を出した。

毛布渡したら、今日はもうおやすみなのかな。
せっかく二人っきりだけど…。
もしこの手に触れたらどんな感じなんだろ…。

「くれんじゃねェのか?」
「え…!うん…」
(私何考えてるんだろう)
渋々毛布を渡す。
横目でゾロを見たが特に気にしてない様子。
と言うか、少しは嬉しそうだ。

すると、眉間にシワを寄せて不思議そうにゾロはこっちを見た。
「…他に何か用かよ?」
「…ないけど…」
もう少し一緒にいたい。…なんて言えないし…。

「何でもない。…おやすみ」
私は踵を返して展望室を出ようとした。

「少し入ってくか?」
後ろからかけられた台詞に、思わず振り返る。

入ってくか、って一緒に毛布に入るってこと…??!
「で、でも…」
一緒に入るってことは、すごく距離が近くなるってことで。
体温が直に伝わるってことで…!

口ごもる私を余所に手招きをするゾロ。
「いいからはやく来い、寒ィ」

ここにずっと立ってるわけにもいかず、私はゆっくりと足を動かした。

ゾロの隣に人一人分空けて座ると、ゾロはこっちを見て言った。
「おい…何でそんな離れてんだよ」
「何でって言われても…」
これ以上近づいたら心臓が爆発するかもしれない。

「…まあいい」
するとゾロはその人一人分を埋めて、私の肩を寄せた。
そして包むように毛布をかけてくれる。

…あ、温かい…。
ぎゅっと抱く手が、密着した肩が、寧ろ熱いくらい。
心臓がドキドキと脈を打ってる。

それにゾロ匂いに、何だか頭がクラクラする…。

ずっと怖い人だと思ってたけど、何にも知らなかっただけで。
「ゾロ…」
ホントは、優しい人なんだ。

「ゾロって…温かいね…」

自然と頬が緩む。
今ゾロはどんな顔してるんだろう。
呆れてるかな?それとも困ってる…?
表情を確認するために見上げると、そこにはじっと見つめるゾロがいた。
「ゾロ…?」
大きい手が私の頬に触れて、ゆっくりとその整った顔が近づいてくる。
(え…?)

考える暇もなくそれは落ちてきた。
唇に柔らかい感触が伝わる。
「…!!」
押し倒され、そのままソファーに横になる。
胸元を押してみるが、その胸板はびくともしない。
大きな身体が覆い被さって逃げ場もない。
逃げようにも力が入らないし、私…何か変だ。
鼓膜まで心臓の音が響いて、壊れるくらいに。

怖い。自分が。
こんな気持ち、知らない。

気がつくと、長いようで短いキスが終わったようだ。
ゾロは苦虫を噛んだような顔をしている。

自分がよく分からなかった。
どうしてこんなに胸が苦しくて、怖くなって、勝手に目尻から涙が伝う。

「…悪ぃ…」
ゾロは私の表情を見て眉間にシワを寄せた。

まだ心臓がドキドキしてる…。
ゾロ顔をまともに見れなくて、胸の奥の奥から変な感情が込み上げてきて。

私はその場から逃げるようにゾロの身体を押し退けて出た。
名前を呼ばれた気がしたけれど、振り向く余裕はない。

縄梯子を降りたその下で、私は膝をついた。
重なった唇が、まだ熱い…。

暫くはそこから動けずに、自分の身体を抱きしめた。

 
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