□兎狩り
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俺には心に誓った奴がいる。

同じ道場での幼なじみで、昔はよく剣道で試合していた。

でも、アイツはもう…。



「あの…ゾロさん、…聞いてます?」


甲板で昼寝がてら考え事をしている俺に、“小さな生き物”が構ってくれと言わんばかりに話しかけてきた。

「…何かゾロさん…最近冷たくないですか…?」

「別にいつもと同じだろ」

そもそも優しくなんてのもしたこともねェ。

「俺はグダグダ長ェのが嫌いなだけだ」


慣れ親しむつもりはない。

あのキスはただのお遊びだ。


いくら求めても、アイツの代わりにはならねェだろ…。


「さっさと会話終わらせたいってこと?」

「簡潔に言えばそうなるかもな」

「わ…私のこと、…嫌いってこと…?」

「…嫌いとは言ってねェだろ」


そう。嫌いではない。

キスしてやって、その煩ェ口を黙らせることぐらいは出来る。


でも。

「それ以上に大事なことがあんだよ」


今でも絶対、忘れることはねェ。

「大事な…ことって…?」


「野望のことを、大事にしてェと思わせてくれる女のことだ」


大剣豪になることと同じぐらい。


「す、好きな人…?」


俺にとって大事な奴。



「そうだな。…すげェ、好き」



最初からお前のことなんて眼中にねェ、って。

そのことに。


――気づくのが遅すぎんだよ。


「そ、そっか…!とにかく、…その人は幸せ者ですね、好かれて…」

ツバキは微笑んだ。

きっと平気なフリをしてんだ。

「頑張って下さいね…!ゾロさん、カッコいいから…きっと大丈夫っ…!」


知ってるぜ?

お前が俺に、『自分だけを見て欲しい』と、言えねェことぐらい。


「…ツバキ、ありがとな…」


俺は、自分の口元が緩んだのが分かった。

ツバキの頭を撫でた時、こいつが今にも泣きそうな顔をしていた。


そうだ、それ。


泣きたいなら泣けよ。


お前の笑顔が壊れんのが見てェ。


でも俺は最後まで眺めんのはやめた。

離れた方が傷つくだろ?


いつも通りのそのガキ見てェな笑顔が壊れる瞬間が“キレイ”なんだからよ。


そうやって苦しめばいい。

絶望すればいい。


外はまだ明るいが、俺はいつの間にか真っ黒に染まっちまった。

あの時のお前の匂いが少し記憶に残ってる。


はやく消さねェと…。


お前にとって、俺は狼みてェな奴かもしれねェけど。

お前は俺にとって、兎みてェに狡ィ女だ。


そんな兎を俺は…。



もっと“深い海に”落としたい。



to be continued…?

 


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