□笑う悪魔のお仕置きを
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街へ出て何時間か経った。

相変わらずナミは元気だ。

色んなお店に連れ回されてこっちは足が疲れている。

そんなことはきっとお構いなしだろう。

楽しくないわけじゃない、けど…。

街のざわめきは少し億劫だ。


「あ!あのお店可愛い〜!!」

いつしか『入ってもいい?』なんて質問を、ナミはしなくなった。

そんな彼女を見て、私は息を吐いた。


(サンジ君とも、こんな風にお買い物したかった…な)

今にも泣き出しそうな空を仰ぐ。


「…あ」

ふと聞き覚えのある声がして、心臓がドキリと動く。

「…サンジ君」

「ツバキちゃん…」

視線を移した先にいたのは、私の大好きな人。

会いたいような会いたくないような、胸の奥がむずむずする。

「買い出しは済んだ…?」

何だか顔が固まって、上手く笑顔が作れない…。

「あぁ…あとは肉を買うだけだよ」

「そっか…」

湿った風が髪を撫でる。

港から微かに漂う潮の香りが鼻を刺激する。

互いに目も合わせられず、気まずい空気が漂う。


もしかして彼は私を嫌いになったのかな…?

それとも他に好きな人が出来たとか。

しかし、昨日の今日で簡単に気持ちが変わるだろうか。

いや!そもそも風邪か、もしくは熱があるのかも!!


少ない想像力を奮いたたせ過ぎたせいか、目が回ってきた。


「…じゃあ俺、もう行くね」


「えっ…!?待って!」


「!」


思わず掴んでしまった彼の左手。

引き留めてどうするの?何を言うの?



「…サンジ君、何か変だよ…?」


口から出たのはそんな言葉だった。

しかしそれを口にした自分ですら、きっと変だ。

些細な出来事一つに不安になってはいけないのに、恋に溺れてはいけないのに。

掴んだ手を見つめながら口をつぐむ。


動いた左手から、サンジ君が振り向いたを確認してから、私は顔を上げた。


「それは、君が――」


低い声と共に唇が動く。

緊張感に、手に力を込めた。





ポツン…





「…?」

頭に感じた冷たい感覚。

さっきまで興味もなかった空を見た。

すっかり黒い雲で覆われて、雨が降ってきたのだ。

私を目掛けて落ちてきているみたいに。

「雨…」

私たちを邪魔するかのように、みるみるうちにその量は増えていく。


「おいで」

デジャヴを感じる言葉に胸が高鳴った。

手を繋ぎ直し、私に頭からジャケットをかけてくれるサンジ君。

引かれるまま、彼が進む方向へ走るのだった。


 
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