短編@

□骨まで愛して
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まるで食肉工場のようだ。
初めはそう思った。
浴槽に溜まった赤黒く酷く生臭い液体。
細かく切り分けられた肉と
どろどろの内蔵。
バラバラに関節の外された骨。
ただ一つ床に置かれた
黒々と長い髪の毛に覆われた
洞のような目をした頭だけが
それが元は人間であった事を
物語っていた。

暫く肉は喰えそうにない。
陰惨な現場を目の前にして
麻痺した思考で
それだけをはっきりと思った。

少し遅れて検分の為に呼び出した監察方がやってきた。
山崎が現場を見るなり盛大に吐いた。
「現状保存が基本だろうが。」
謝罪の言葉を繰り返しながらも、山崎はこういう仕事は自分の管轄外だと不平を漏らした。
確かに監察の中でもある程度の役割分担が存在して、山崎に関しては潜入や張り込みなど情報収集の分野を主として活動してはいるのだが。
「それでも監察の総括は、お前の仕事だろう。」
監察の筆頭としては管轄外だのとは言うべきではないと思うのだ。
「へい。その通りで。今日は人手が足りなくて覚悟はしてきたのですが…。」
気持ちは充分理解できる。
斬った死体を見慣れた俺でも、これはちょっと無いだろうと思った位だ。
特に何とも例えようの無い異臭が鼻を突いて耐え難い。
一度吐いた後は山崎は肝が据わったものでテキパキと部下達に指示を与えながら現場の検分を始めた。
俺は外に出て集まってきた野次馬と報道関連の対応に追われる羽目になった。
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