短編@

□世界を占めるもの
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「それでは、行って参ります。」
警察手帳と普段使用している携帯を部屋に置き、山崎は近場に散歩にでも行くかようにあっさりと屯所を後にする。
安っぽい綿の着物を着て、最小限の荷物を風呂敷に包み、銘も無い刀を腰に差して。
独りで敵地に赴くのには心許ないその出で立ち。身元が特定されるような物は何一つ持たずに。
以降の山崎の行動は他の監察を通してのみ伝えられる。
どんなに危険と背中合わせの潜入であっても、今生の別れになるような気配は微塵も感じさせない。
だから俺も素っ気ない態度で見送る。
帰りがいつになるかは分からない。
それでも必ず帰ってくると信じる。

命令を下すのは俺だ。
本当は傍に居て欲しいと
強く願うのもまた、俺だ。
相反する気持ちを隠し
信頼という言葉で蓋をする。

主の居ない部屋に風を通す。
カビ臭くならないように。
ふと目に付いた警察手帳を開く。
真面目ぶった顔で写る山崎が
真っ直ぐに此方を見る。
携帯にはロックがかけらている。
中を見ようと思えば
解除No.は予め教えられているので
可能ではある。
敢えて中身を見ようとは思わない。
もしも帰ってこない日が来るなら、
その時は解除するだろう。

この小さな携帯の中にも
山崎の世界は存在していて
その中にはきっと
俺の知らない世界もあって。

お前の世界を占める俺の割合は
どの位なんだろう。

馬鹿馬鹿しい考えを打ち消すように
手帳を閉じて部屋を後にした。
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