短編@

□雨のように降り注ぐ
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沖田の腕で背中を斜めに支えられた状態で、山崎は土方がパトカーから降りてくる方を見た。

「副長、しくじっちまって申し訳ありません。」

土方が現場に到着した時には、既に一番隊が門の前で突入の準備を開始していた。
手はず通りに以前から攘夷浪士の徒党に潜入していた山崎が中から錠を外すのを待って、沖田が門扉を開けた。
すると山崎が地面に仰向けで倒れていたのを発見したらしい。
周辺に人の気配が無いところを見ると、門前に真選組が集結している事にはまだ気付かれていないようだが。

沖田から引ったくるようにして土方は山崎を抱える。
そして、脱いだ隊服の上着を地面に敷き、その上に山崎の身体を横たえた。

「山崎っ!一体何が…?」
額から血を流した山崎は苦しそうに浅く短い呼吸を繰り返す。
「…それが…。」
土方の腕を一瞬掴んだ山崎の手が力を失ってパタッと地面に投げ出される。

「山崎…山崎っ!」
土方は慌ててその身体を抱え上げパトカーの方に運ぼうとする。

それまで黙って見ていた沖田だったが、冷静に土方の前に立ちふさがり、阻止した。

「土方さん、落ち着いてくだせぇ。浪士達に気付かれたら、これまでの山崎の仕事が無駄になりまさァ。それに、頭打ってるかもしれないんで、静かに運ばねぇと。」

沖田だって山崎の事が心配ではあるが土方が先に動揺するのを見ると、自分がしっかりしなくてはいけないという気分になる。

この男は普段冷静なくせに山崎が絡むとどうしてこうなんだか。だから、自分の方がだいぶ年下だし立場も下なのにこうして時々気を回す羽目になるんだよな。と、沖田は呆れ気味ではあるが、山崎の事で必死になる土方は嫌いではない。

基本、監察筆頭で副長助勤の山崎は副長である土方の指示によってのみ動く。
戦略家としての土方が細部の戦略を組み立てるのに必要な情報は殆ど山崎が調査してもたらすものだ。
時に命の危険性を孕んで、たった独りで山崎は敵地に赴く。
その精神を支えるのは直接彼に指示を与える直属の上司であり恋人でもある土方が引き受けるべきであろうと沖田は考える。

彼等の信頼関係が成り立ってるからこそ今の真選組の活動が円滑に進むのだといっても過言ではないのだ。
決して恋人同士であるという事が必然なのではない。忠誠心やら師弟愛やらと他の関係性を築けば良いだけの話だ。
土方と山崎の場合は上司と部下の関係を築く以前にそうやって関係が始まっただけの事だ。
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