続き物

□青い果実
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食堂で昼食をとっていると、顰めっ面の副長が脇目もふらずに一直線に俺の方に向かってくる。
はて…気付かないうちに俺ってなんかやらかしてたかな、と緊張が走る。

「総悟どこにいるか見てないか?」

またどうせサボリだろうよ。
しかしなぜ真っ先に俺に聞くのだ。監察長だからって何でも把握してるとでも思うのか?

「俺は知りませんよ。」

そうは言っても、副長はかなり理不尽なのだ。
昼食の途中でも、例え他の業務に追われている最中だとしても一緒に探してやらないときっと怒る。
下手すると俺が知らないっていう事実にも腹を立てる。
仕方がないので、一緒に捜してやるのが最良の選択だろうと席を立つ。

「嫁なら旦那がどこで何してるかぐらい把握しておけよ。」
「はいィィィィィ?あんた、何言っちゃってんのォォォ?」

あ、やべぇ。なんか声ひっくり返った。
しかも副長に向かって失礼な口調だったよな。また怒られるのか…。
でもさ、嫁?嫁って何なのさ。
今の会話の流れだと沖田さんの嫁=俺?
ありえねぇだろう…あくまで清いお付き合い…っつか意識した事すらねーよ!

「違うのか?総悟が言ってたんだが…」

副長の言葉にこくこくと頷く。
それは沖田さんの悪い冗談に違いない。
だって男同士なのにどーしろって言うんだよ。この人存外簡単に信じちまうんだから少し厄介。

「あー、そうだよな。んな訳ねーか。」

副長は独りでなんか納得したように頷いて、立ち上がろうと中途半端な姿勢だった俺を再び椅子に座らせて自分も並んで座る。

「お前は俺の世話と仕事で精一杯の筈だよな。総悟の相手してる暇なんて無いよな」
「はぁ。」

何だよ、そのしたり顔は。
そのせいで俺って他の隊士より休んでない気がするんだよ。非番だって副長の用事に付き合わされる事が殆どなんだから。

「どっちかってーと、お前は俺の嫁みたいなもんだ。相違ないな?」
「はぁ。」

嫁と形容されるのもどうかと思うが、副長の部屋の掃除やら洗濯やら、細かい身の回りの世話をさせられているのは事実。
実の嫁でも俺以上に甲斐甲斐しいのなんていないんじゃね?

「よし、そうと決まれば今夜俺の部屋に来い。可愛がってやるから。」
最後はくすぐったくなるような熱い息を耳朶に感じるくらい近づいて、色を含んだような声で。
まぁ、副長って、たまに無駄に色気を放出してくるからなぁ…と、その伏せられた切れ長の目を盗み見る。

「返事は?」
「はいよ。」

意味はよくわからないが可愛がってくれるって言うなら怒られるより全然良いよね。
顰めっ面の多い副長が珍しく上機嫌なのを見て少し嬉しくなる。

「じゃあ、また後でな。」
副長は照れたような笑みを浮かべて、振り返りもせず、軽い足取りで食堂を出て行った。

沖田さんの事は、もういいのかな。
などと思っていると、当事者の沖田さんと出口ですれ違ってるのに、副長は全く気にしていない様子。

探してたんじゃなかったのかよ!
そこで口には出さず脳内だけで突っ込むのは俺なりの処世術。
いちいち突っ込んでは殴られるんじゃ身が保たん。
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